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(>>1の続き)
「おもしろい」という気持ちを大切にすることで、たった6人の町工場からノーベル賞級の研究を支える企業に成長した例もある。
光センサーの分野で世界をリードする浜松ホトニクスだ。
同社は、光を検知する光電管の世界シェアの6割を握っている。その技術は血液検査や環境分析、バイオ分野など多様な分野で
利用されており、売り上げは年間1000億円を超える。
とりわけ注目されるのは、小柴昌俊東大名誉教授がノーベル物理学賞を受賞するのに多大な役割を果たしたニュートリノ検出器
スーパーカミオカンデの光電管を受注していることだ。また、昨年のノーベル物理学賞を受賞したピーター・ヒッグス氏が提唱していた
ヒッグス粒子の発見にも一役買っている。欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器にも同社の技術が使われている
のだ。つまり、同社の技術がなければ、ニュートリノも「神の粒子」と言われるヒッグス粒子も観測できなかったことになる。
同社の事実上の創業者である晝馬輝夫会長は、素朴な気持ちで「なぜ?」を突き詰めることが、未知の分野を開拓する上で最も大切な
ことだという。
「子供の頃、面白いと思ったことを『どうして?なんで?』としつこく聞いて、親や先生を困らせたことがあるでしょう。これこそが真理を
求める心なんです。そういう心がなければ、未知未踏の問題にチャレンジなんてできっこありません」
新しい問題に取り組むことができるかどうかは、学歴とは関係ないと晝馬氏は言う。
「お客さんから『こんなものを作ってこい』と言われたら、七転八倒しながらでもやるしかない。でも、優秀な成績で大学を出た若い
社員は、そういう注文を受けると、難しい数式の並んだような立派なレポートを書いてきます。そして結論のところに『……よって、これは
できません』とある。しかし、高い給料を払って『できない』ことを証明する人間を雇う必要はどこにもないでしょう。
本当の創造とは、そんな秀才からは生まれません。実際にはどうやったらいいかまったく見当もつかないけれど、ともかくやってみる。
そうしたら『やっているうちにできちゃった』ということがよくあるんです」
浜松ホトニクスでは、大学を卒業したばかりの社員に、「タマ洗い」という光電管のガラスをブラシで洗う作業をひたすら命じていた
時期がある。
「せっかく大学で学位をとってきたのに、ひたすらタマ洗いを命じられ、音を上げた社員もいます。しかし、そうした単純な作業をくり返す
ことで、『きれいな状態とはなにか』ということについて、突き詰めて考えるようになる。ガラスの表面一つとっても、実はわからないこと
だらけなんです。
その大卒の社員はやがて物質の表面に関して強い問題意識を抱くようになり、世界で初めて『表面のきれいさ』を証明する計測技術を
開発してしまいました」
「明日の予定を聞くな」
もともとは特別な技術も研究所も持たず、「あるのは昔の中学の物理と化学の教科書くらいだった」という浜松ホトニクスが、
ノーベル賞級の研究を支えるまでに成長できたのは、さまざまな無理難題を前にした社員たちが「ああでもない、こうでもない」と
続けてきた試行錯誤の結果だろう。
晝馬氏の目下の夢は、レーザー核融合を利用して、日本の高い電気コストを大幅削減すること。とてつもなく大きな目標だが、
無理難題を前にした新しい挑戦は続いていく。
(さらに続きます)