13/06/16 16:28:59.54
為替レートが国の実力に応じて変動しないユーロ圏では、経済破綻した国だからといって通貨が
安くなり、それによって外から投資や仕事を呼び寄せられるということがない。だとすれば、
人のほうから動くしかない。実際、それが今ヨーロッパで起こっていることだ。
スペインの王立エルカノ研究所の調査によると、30才未満の若者のうち約7割が国外へ移住する
ことを考えていると言う。ポルトガルに至っては、過去2年間ですでに人口の2%が移住している。
自国を捨て国外に出る人の数は2008年から倍増しているのだ。
極めつけはアイルランドかもしれない。毎月3000人以上が国外移住するという記録的な大移動が
起こっているのだ。これほどの移民が出るのは、19世紀にアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」
以来。移住する人の中にはポーランドから来ていた出稼ぎ労働者が自国に戻っている数も含まれて
いるが、多くはアイルランド人だ。
こうした移民の行き先はというと、お察しの通り経済が比較的好調なドイツが人気だ。ドイツの
連邦統計局によると、昨年、約100万人もの移民がドイツへ押し寄せており、これは一昨年から
13%の増加だ。特にスペイン、ギリシャ、ポルトガルそしてイタリアからの移民は12年と比較して
5割近く増えているという。
だが、他の移民たちは職にありつくために、かつて先祖たちが移り住んで行った「伝統的な移民先」
にも向かっているようだ。アイルランド人ならイギリスへ、スペイン人は南米へ、そしてイタリア人は
アメリカへ、といった具合だ。
こんな社会現象の話を聞くと、欧州経済はますます悪くなっていると思うかもしれない。
だが、EUの高官は「圏内移民」こそ、欧州が経済危機から脱却するカギになると言う。
アメリカと比べて労働者の圏内移動が少ないことは、彼にとって黙って見過ごせない
深刻な問題なのだ。
もちろん、そんなに手っ取り早く都合のいい政策などそうありはしない。たとえばポルトガル人が
急にフィンランド語を話せるようになるわけもない。
だが、EUという単一の労働市場をもっとアピールするためにできることはある。例えば資格や、
移住後も年金が移管される仕組みを整えるといったことが挙げられるだろう。
圏内移民には、為替変動による資本移動ほどの調整力はない。だが、しばしば制御不能になる
為替相場と違い、政治的な努力は実りやすい。
◎URLリンク(www.newsweekjapan.jp)