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昨年7月、ノルウェーの首都オスロ近郊で、残忍な乱射殺人事件が起きた。外国人移民排斥を
主張する男の犯行だった。この事件を報じる日本のメディアの論調は、移民政策の負の側面を
強調するものが目立った。欧州諸国ではこの事件によるショックが大きかったが、移民政策の
見直しといった議論にはなっていない。
欧州諸国の主要都市は、人口の2割が外国人というケースが多く、外国人を排斥していては、
足下の経済も、国としての機能も果たせないところまできている。人口の少ない北欧諸国は
なおさらだ。
欧州の移民先進国であるドイツも、長年、移民による社会不安が声高に叫ばれてきた。
1970年前後の経済成長期に工場労働やごみ収集などの単純作業の人手不足を補う目的で、
トルコなどから大量の移民を受け入れたことがきっかけだった。年間に50万人以上が増加した。
移民が増えることで外国人居住地区などが出来上がり、これが社会不安の種になった。
これに対してドイツでは、政府を挙げてドイツ語教育の徹底に取り組むなど積極的な
「移民統合政策」を進め、移民をドイツ人として受け入れるための社会基盤を整備していった。
80年代後半から90年代前半にかけて、再び移民ブームが起きる。毎年60万~80万人の移民が
増える状態が続いた。EU(欧州連合)の市場・通貨統合やEU圏が東欧に拡大していく時期に、
ドイツが大きく輸出を増やすことができた一因が、この移民受け入れによるマンパワーの
供給だったことは明らかだ。
ドイツの人口は2009年末で8190万人だが、このうち移民系の人口は1570万人に達した。
さらに外国人が669万人おり、合わせると人口の27%に及ぶ。これはドイツに限ったこと
ではなく欧州に共通した傾向だ。 ところが、そんな移民大国のドイツで異変が起きている。
移民の流入が減っているのだ。とくに、かつてドイツへの移民の中心だったトルコ人の減少が
目立つ。EU統合の経済効果もあり、外縁部であるトルコなども経済が大きく成長した。
01年から11年の10年間にトルコの名目GDPは1666億トルコリラから1兆1051億トルコリラ
へと6.6倍になった。この間、ドイツも成長したが、名目GDPは2兆475億ユーロから
2兆4768億ユーロへと1.2倍に過ぎなかった。
つまり、ドイツに来るよりも、トルコにいる方が、経済成長に乗るチャンスが大きかった、
ということなのだ。移民の多くは経済的な動機や住環境など多様な理由で居住国を移すが、
ドイツでの生活が外国人にとって相対的に魅力的でなくなっているということなのだろうか。
ドイツへの移民は、トルコから、セルビアなど旧ユーゴスラビア出身者へと変わり、最近は
ルーマニアやウクライナといったより経済力の弱い国の出身者になっている。それでも
08年と09年は「入国者」よりも「出国者」の方が多い、純減状態が続いている。
ドイツは欧州諸国の中でも、税金負担が大きいことで知られる。北欧型の高福祉高負担に近い
体系となっているため、低所得者でも税負担は大きい。教育費が安いなどメリットを強調して
いるが、外国人移民にとって魅力的と映らなくなっているのだろう。
高額所得者の間でもドイツでの税負担の大きさに不満が高まっている。統計によれば、
スイスに移住したドイツ人は02年にはおよそ1万人だったものが、08年には3万人に
達したという。(※続く)
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