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(続き)
・インクの粘度がカギ
油性ボールペンのインクは、特定の油性溶剤に染料を溶かすのが一般的だが、油性は水性と違い、
溶剤そのものがボールの潤滑油の役割を果たすため、溶剤の粘度を下げるとペン先に引っかかりが出る。
かといって、粘度の高い溶剤を使うと、インクが乾きにくくなる。
市川さんは従来の溶剤をあきらめ、別の溶剤を50~60種類試した。これにともない、
溶剤に溶かす染料も従来品が使えなくなり、最終的には“古巣”のスタンプ時代に培った顔料の技術を応用する。
ペン先のカートリッジに試作のインクをつめては、試し書きする日々が続き、最適の組み合わせを見つけるのに、
「1年間を費やした」という。
ペン先とインクを詰めるパイプが一体となった「リフィル」の開発でも苦労した。
試作したインクを従来のリフィルに詰めたものは書き味が今ひとつだった。
市川さんから相談を受けたリフィル開発の武藤広行さんと小林武さんは、四苦八苦する。
通常のインクに比べ粘度が低く、乾きやすい試作インクと、ボールペンのボールと台座の、デリケートな調整は困難を極めた。
半年から1年にわたる試行錯誤によって、インクの流出量が安定するペン先を開発。
試作インクも、ペン先との相性を考えて配合を調整し、最適のインクとリフィルの組み合わせが完成した。
・魔法みたい!
14年4月、東京・渋谷で行われた新ボールペンのモニター調査。手に取った外国人女性の表情が変わった。
「イッツ・ア・マジック(魔法みたい)!」。この新商品は、15年はじめに「ジェットストリーム」と命名され、
同年末に北米など海外で先行発売した。
ペンに高級さを求める海外では、約2・5ドルと通常より割高でも生産が追いつかないほどの売れ行きだった。
国内でも18年7月に発売するや、海外合わせ半年で異例の1千万本以上の販売を記録した。
好調な販売を支えているのは性能だけではなかった。ボールペンのデザインは通常、使いやすさを重視し、
インクの色とボディー色を合わせるのが一般的。だがジェットは、インク色を示す細いリング以外は、黒のボディー色で統一した。
デザイン担当の高梨和彦さんは「インパクト重視。ジェットは絶対、店頭で埋もれさせたくなかった」と力を込める。
同じく、ジェットにほれ込んだというマーケティング担当の渋沢雅夫さんは話す。「これだけの商品。ライバル社はきっと追いかけてくる」。
従来まで水性ゲルボールペンを購入していた女性が、ジェットを支持していることをつかんだ。これが女性向け「Fシリーズ」の提案につながった。
市川さんは「油性はなめらかでなくてもいい、というのが業界の考え方。でも私はボールペンの素人。だからかえってよかったのだと思います」と振り返った。
(記事終)