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外交の世界に、信任状奉呈式というものがある。新任大便が、相手国の元首に自身の派
遣を通知する文書を手渡す儀式で、記念撮影や歓談など、和やかな雰囲気が通例だ。だ
が先日、原田親仁駐ロ大使が出席したモスクワの奉呈式では、見守る私たちの間に緊張
感が漂っていた。
それには理由がある。前任の河野雅治大使(現イタリア大使)が出席した2年前、メド
ベージェフ大統領が、突然北方領土問題を持ち出して「ロシアの主権を疑問視する日本
の試みは交渉継続を促すことにはならない」と痛烈な批判を浴びせたからだ。
今回、大統領は「隣国日本との第1の課題は、災害克服での協力」など前向きな発言に
終始、記者席の緊張感も和らいだ。
だが、日ロ関係はぎくしゃくしたままだ。鳩山政権では当時の前原誠司沖縄・北方担当
相が北方領土について「ロシアの不法占拠」と発言。交代した菅直人首相もメドベージ
ェフ大統領の北方領土訪問を「許し難い暴挙」と述ベ、ロシア側の反発を招いた。
確かに、日本人にしてみれば、ロシア首脳が四島の主権を誇示するかのような振る舞い
に腹立たしい思いがする。
だが気をつけたいのは、ロシア側は訪問の理由を「島の発展計画の進展を確認するため」
としていることだ。ロシアが集中的にインフラ整備を進めているとはいえ、四島は都市
部とは比較にならないほど貧しい。その生活を向上させたいというのなら、それはそれ
で筋は通っている。
「島はどちらの国のものか」は別にして、実際に今住んでいるのはロシア人だ。私たち
と間じように、生活や人生、家族や仲間がある。大統領の訪問を「暴挙」と切り捨てる
だけでは、現島民の暮らしを置き去りにしているようであんまりな気がする。
原田大使は着任時の記者会見で、領土交渉について「これまでの日本の立場を堅持する」
と述べだ。それは何か。
ソ連崩壊後の1992年、当時の宮沢政権は、ロシア側に「北方領土に居住するロシア
国民の人権、利益、希望は返還後も十分に尊重していく」と伝えている。こうした基本
的な姿勢は、民主党政権も引き継いているはずだ。
冒頭で触れた奉呈式で、原田大使はシャンパンを手に、この日出席したどの国の大使よ
りも長く、約3分間、大統額と一対一で話していた。これまでの経緯を熟知している新
大使の今後に期待したい。