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朝日新聞「国立大の悲鳴」取材班
2024.11.28 7:30
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トイレが改修できない!「洋式待ち渋滞」が発生した金沢大学
2024年6月、全国86の国立大学で作る国立大学協会の永田恭介会長(筑波大学長)が急遽記者会見を開き、異例の声明を発表した。
教職員の人件費や研究費に充てる国からの運営費交付金が減らされたうえ、ここ数年の光熱費や物価の高騰が重なり、各国立大学の財務が危機的な状況にあると説明。国民に対して、「運営費交付金の増額を後押ししてもらいたい」と訴えた。
法人化された04年当初よりも減額されたとはいえ、今も国立大学全体で1兆円を超える運営費交付金を受け取っている。それなのに、なぜこんな悲鳴が上がるのか。危機的な財務状況に陥った国立大学では今、どんなことが起きているのか。
金沢大学の学生一人ひとりが安心して使えるトイレを、少しでも増やしたい―。金沢大学は23年秋、キャンパス内のトイレを改修する費用を集めるためとして、クラウドファンディングを行った。
同大が、金沢市中心部から、郊外の山あいの現在地に移転して30年余り。一気に改修時期を迎えたトイレの便器は当時、約300あった。
たかがトイレと思うなかれ。この30年で大きく増えた女子学生にとっては、特に譲れない問題だという。同大では数多く設置されている和式は敬遠され、「洋式待ち渋滞」が発生。「休み時間にトイレに行けない」といった不満も寄せられ、大学としても放置できない状況になっていた。
だが、ウクライナ危機が続き、コロナ禍かが明けたタイミングで、電気代や物価などが高騰していた。運営費交付金が抑制されるなか、乏しい自己資金だけで細々と改修していては、長い時間がかかってしまう。そこで学内外から寄付を集め、便器の洋式化や、床面の塗り替えなどの改修を前倒しすることにしたという。
目標額は300万円。本当に寄付が集まるのか、ふたを開けてみなければわからなかったが、わずか2カ月間で355万円も集まった。大学側の思惑以上の成果があがったという。一方で、金沢大学といえば、規模や研究成果などをみれば、「地方大学の雄」ともいうべき存在だ。ネット上では「どれだけお金ないのよ……」などと驚きの声が広がった。
国立大学では今、いささか切なさを感じるこうした事例が、各地で起きている。
朝日新聞が24年1~2月に、国立大学の法人化20年を機に実施したアンケートには、全国の学長や教職員から、「予算が足りずに学生の教育・研究環境に悪影響が出ている」と訴える声が続々と寄せられた。ふだん取材している私たちでも、「ここまでひどいのか」と驚くような、具体的な窮状を紹介するコメントも数多く届いた。
トイレについての厳しい現状については、別の大学の職員からも訴えがあった。「設備費にお金をかけられなくなり、トイレの水漏れも修繕できない」という。最先端の研究に打ち込む教員や、将来を見据えて懸命に学んでいる学生が、水漏れがするトイレを使っている姿を想像すると、いたたまれない気持ちになる。
今では、店舗や住宅でも、ほとんど見かけなくなってきた和式トイレ。だが、国立大学を訪ねると、今でも現役で使われているのを見かけることが多い。記者が23年に大学教育学会の取材をするために訪ねた大阪大学の工学部でも、一つの建物内で何カ所かのトイレを使ったが、個室はすべて和式だった。
大半の国立大学は、教育・研究の発展には多様な人材が交わることが必要だと考えている。政府も、多様かつ優秀な人材を確保したい産業界などの要請を受けて、工学部を中心に女子学生を増やそうと躍起になっている。このため、ここ数年、入試に女性しか受験できない「女子枠」を設けたり、女子中高生だけを対象にした説明会を開いたりと、女子学生を増やすために、あの手この手の対策に取り組む国立大学が増えてきた。
教育や研究の内容、入試方式などが重要であるのは言うまでもない。だが、学生は学部だけでも4年間、大学院の博士課程まで進むと、10年近く大学に通うことになる。長い時間を過ごすキャンパスの環境もまた、女性が気持ちよく学び、研究を続けるために重要な要素の一つだ。
かつてはバンカラのイメージが強かった大学も、キャンパスをリニューアルした際には、きれいなトイレをアピールポイントの一つにしていた。女性を積極的に受け入れる姿勢を示す格好のアピール材料となるからだ。明治大学は今や女子高校生の人気が非常に高い大学として知られるまでになっている。
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