23/03/31 10:02:23.58 WxTQ7BE50.net
あるいはまた、ある夕べ、
わたしたちが労働で死ぬほど疲れて、
スープの碗を手に、
居住棟のむき出しの土の床に
へたりこんでいたときに、
突然、仲間がとびこんで、
疲れていようが寒かろうが、
とにかく点呼場に出てこい、
と急きたてた。
太陽が沈んでいくさまを
見逃させまいという、
ただそれだけのために。
そしてわたしたちは、
暗く燃え上がる雲におおわれた西の空をながめ、
地平線いっぱいに鉄(くろがね)色から
血のように輝く赤まで、
この世のものとも思えない色合いで
たえずさまざまに幻想的な
形を変えていく雲をながめた。
その下には、それとは対照的に、
収容所の殺伐とした灰色の棟の群れと
ぬかるんだ点呼場が広がり、
水たまりは燃えるような天空を映していた。
わたしたちは数分間、
言葉もなく心を奪われていたが、
だれかが言った。
「世界はどうしてこんなに美しいんだ!」