23/02/09 06:20:27.69 YgoTA0i+9.net
東洋経済2023/02/09 5:00
URLリンク(toyokeizai.net)
■「寮費天引き」で手取り額がマイナスに
「支給額がマイナスのことがあるんですよ」
ひきこもり支援をうたう“引き出し業者”の施設に入所して3年。静岡県内の工場で働かされていたヒロユキさん(仮名、51歳)は、職場で出会った同僚にこう愚痴をこぼした。自宅から通勤する一般の派遣労働者だった同僚からは「そんなところ早く逃げたほうがいいですよ」と驚かれたという。ヒロユキさんがあらためて脱走を決意した瞬間だった。
週5日のフルタイム勤務。月収は16万円ほどで、通常であれば社会保険料や「寮費」約10万円などを差し引いた2万~3万円が支給された。しかし、ゴールデンウイークや夏期休暇で勤務日が少ない月は、収入がマイナスになってしまう。実際、毎月の支給明細書の一部は「差引支給額」欄が3000~4000円ほど「-」になっていた。
入所施設は相部屋。それで寮費10万円は割高なのではという問題もさることながら、給与から税金や社会保険料以外の項目を天引きすることは原則労働基準法で禁じられている。天引きにより手取り額がマイナスになるなど搾取といわれても仕方ない。
働き始めた当初スタッフからは「1年間で50万から70万円は貯まる」と説明されたという。ところが、半年後、業者側に没収されていた通帳を見せてもらったところ、貯金額が予想の半分以下だったことにショックを受けた。思えばこのころから不信感はあった。
親と同居していたヒロユキさんの自室に引き出し業者がやってきたのは4年前。突然、見知らぬ男2人から「これから施設に行くので10分で支度するように」と告げられた。呆然とするヒロユキさんに対し、男たちが「財布、出してください。親御さんの許可は取ってます」と追い打ちをかける。結局、キャッシュカードから保険証、運転免許証、通帳まで取り上げられ、車に乗せられた。高圧的な物言いは「暴力団のようでした」。押し問答が続く中、おびえた飼い猫が異様な鳴き声を上げていたことを覚えている。
■「引き出し業者」とは?
引き出し業者とは、ひきこもり状態にある人などの自立支援をうたい、強制的に施設入所させる民間事業者のこと。中には部屋の扉をこじ開けて侵入し、当事者を暴力的に引きずり出すケースもある。こうした業者は精神的、経済的に追い詰められた当事者の親と契約することが多い。高額な料金を請求しながら、施設に監禁したり、精神科病院に入院させたり、最低賃金以下で働かせたりする悪質業者もいる。
ヒロユキさんが入所した施設でも、不適切な行為は数多くあった。
まず大手製造メーカーの系列工場で派遣労働者として働かされていたのに、一度も有給休暇を取ることができなかったという。さらに工場勤務以外に業者が所有する車の洗車や施設敷地内の草むしり、幹部スタッフの所用の手伝いなどを強いられたり、定期的に朝食の準備や皿洗い、掃除をさせられたりしたが、それらはいずれも無給だった。
また、居室からベランダに出るとブザー音が鳴ったほか、一部の部屋は扉から出入りするたびに電子音が鳴る仕組みになっていた。「侵入者対策と説明されましたが、いったいだれが侵入してくるというんですか」。事実上の軟禁だと、ヒロユキさんは感じたという。
プライバシーも守られなかった。郵便物はスタッフが開封して“検閲”。マイナンバーカードの作成やコロナワクチンの接種も「当然のように強制された」。マイナンバーカードと接種証明書はほとんどの入所者が没収されていたという。
ヒロユキさんは「運転免許証の更新はがきも圧着部分がはがされた状態で渡されました。自分自身はマイナンバーカードもワクチンも必要とまでは思っていなかったけど、断れる雰囲気ではありませんでした」と憤る。
夜10時の点呼時には所在確認のためと、一方的に写真を撮られた。金銭管理に関しても、最初は1人で買い物に行くことを禁じられたうえ、その後も1週間ごとに5000~6000円を手渡され、買い物内容とレシートの報告・提出を義務付けられた。
■3年間でかかった費用は総額約500万円
また、入所当初、ヒロユキさんの家族は業者から「サポート費」として毎月10万円を請求されていたという。「給料から寮費として10万円も引かれていたのに。なぜ家族からさらに取り立てる必要があったのか」。結局、3年間でかかった費用は総額約500万円。家族は自宅マンションを売却することでそれらを捻出したという。