21/05/07 21:52:50.20 MM6W9Iz19.net
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─AIを用いた解析により、これまで一人の書き手による文書だと考えられてきた死海文書の巻物に、もう一人の筆記者の存在が浮かび上がった
ある羊飼いの少年が1947年、死海の北西岸にあるクムラン洞窟で、古い壺を発見した。
なかから出てきた巻物は、のちに一帯で出土した数々の断片とともに死海文書と名付けられ、その存在が公表されると瞬く間に世界中の興味の的となった。
一連の文書は紀元前250年から紀元70年ごろまでに書かれたとされ、その内容は旧約聖書正典の写本のほか、外典および偽典、そしてクムラン教団の規則を記した教団文書などで構成される。
外典とは正典に編入されなかった文書を指し、偽典はさらに外典からも除外された文書を意味する。
1956年までにかけて計3万点前後の断片が発見されたほか、今年3月には約60年ぶりに新たな断片が発見され、大きな話題を呼んだ。
これほど注目を集めている死海文書だが、発見から70年以上を経てなお、その製作者は謎に包まれたままだ。
写本を行った人物あるいは集団は、彼ら自身に関する記述を死海文書中に一切残していない。
洞窟近くの遺跡で集団生活を送っていたクムラン教団による写本であると見られるが、教団については古代ユダヤ教のエッセネ派とする説と
それを否定する材料が入り乱れており、真相はいまも謎のベールに包まれたままだ。
そんな謎に満ちた死海文書の書き手をめぐる発見が、このたびAIの機械学習などの助けを借りて実現した。
■ 7メートルに及ぶ貴重なイザヤ書を分析した
研究を主導したのは、オランダのフローニンゲン大学でヘブライ聖書と古代ユダヤ教を研究しているムラデン・ポポヴィッチ博士だ。
研究論文が学術誌『プロス・ワン』上にこのほど掲載された。
ポポヴィッチ博士らチームは、クムラン洞窟で最初に発見された7つの巻物の一つである『イザヤ書』に注目した。
ほぼ完全な状態で見つかった数少ない死海文書であり、その全長は7メートルに及ぶ。
巻物は全54段から成り、ちょうど半分の27段目と28段目のあいだで2つの紙片を縫い合わせた跡がある。
2人の筆記者による製作物をここで縫い合わせたという見方も少数ながらあったが、筆跡が双方でほぼ同一であることから、
これまでは単一の書き手による写本であるとの見方が有力だった。
■ 「ヒンジ」の解析で、文字から筋肉の運動を読み解く
博士たちは真相を究明すべく、次のような手順で解析を進めた。
まずはイザヤ書のデジタルスキャン画像を入手し、ディープラーニングの手法を用いて二値化した。
すなわち、紙質によるノイズと背景を取り除き、文字の部分だけを抽出する工程だ。
続いてチームは、ヒンジの分析作業に取りかかった。ヒンジとは個々の手書き文字に表れる微細なクセのことだ。
書き手は無意識にペンを速めたり遅くしたりしており、文字にはこうした筋肉運動の形跡が残されている。
例えば線が曲がる箇所では必然的に速度が落ちていたことが想定され、その曲率が急であるほどペンを走らせる速度は遅かったことになる。
このような特性をパターン認識の力を借りて分析し、サンプルの文字ごとにベクトルで表現した。
さらに研究チームは、文字の細部だけでなく、文字単位での特性も考慮したいと考えた。
そこでチームは、イザヤ書に登場する全ての書き文字を収集し、ヘブライ文字の各アルファベット1つに対し、数十の代表サンプルを作成した。
代表サンプルの作成には、ニューラルネットワークの一種である自己組織化マップと呼ばれる手法を用いている。
自己組織化マップは、機械学習の一種だ。同じアルファベットを書いた大量のサンプルを投入すると、とくに評価ルールを人為的に決めなくとも、
全サンプルの違いを最もよく表現できる評価軸2つが導き出される。さらに、特徴が似たサンプル同士でグループに分類される。
手書き文字は複雑で数値化しにくいものだが、似た筆跡同士の文字を人間の先入観なしにグループ分けし、さらに各群の特徴を2つの数値で表わせるという寸法だ。
最後にチームは、ヒンジと自己組織化マップ、さらにこれらを混合した結果を、統計的手法を用いて解析した。
すると、各手書き文字のサンプルは、明らかに異なる特性を持つ2つの群に分類された。
そしてそれらの群は、それぞれイザヤ書の前半と後半の文字に由来していることが判明した。
こうして博士たちは、文書の半ばを境に明らかに異なる2つの筆跡を観測し、イザヤ書の背後には2人の書き手が存在したとの結論に至った。
※略