20/09/09 16:17:23.95 wBcm7Du19.net
―まず安倍首相の突然の辞任について、どう思われましたか。
加藤氏 難病を抱えていたのだから、本当はもっと早く辞めるべきだったのかもしれません。持病である潰瘍性大腸炎は完治しない病気だと言われます。自分ならやれるという思いもあったのでしょうが、そこは自己認識が甘かったのではないか。本来の自民党総裁の任期だった2期6年(2018年9月まで)が限界だったと思います。この時点で森友、加計問題も含めて長期政権の“ゆるみ”が表面化していたのに、自民党が党則を変更して、総裁任期を連続3期9年までとしたことは悪手でした。選挙に強いという理由で、安倍さんをずっと持ちあげて、辞めさせなかった周りにも責任があると思います。それによって、引き際を誤ることになった。そういう意味では、個人的には同情します。ご本人も不本意だったでしょう。ただ、安倍さんが病気で辞めたことと、政権が行ってきた政策の総括とは別です。安倍政権の検証がなされたうえで、次の政権はスタートするべきであり、首相が病気だからという理由で議論をストップさせてはいけません。
―では、政治哲学が専門である加藤先生からみて、安倍政権の7年8カ月をどのように総括されますか。
加藤氏 率直に言って、僕は安倍政権には「負の遺産」しか見つかりません。なかでも3つの点で、非常に問題がある政権でした。
1つ目は立憲主義を否定して法的安定性を崩壊させたことです。2015年に閣議決定だけで解釈改憲を行い、集団的自衛権を合憲化してしまいました。これは歴代政権で誰もやったことのない暴挙です。憲法解釈を内閣だけでやれるとなれば、何でもできてしまう。内閣法制局長官の首をすげ替えて、解釈改憲を可能にさせたことも前代未聞です。検察庁法改正案も含めて、司法や検察の人事に内閣が介入し、三権分立の破壊を招いた。政治が最も尊重すべき法的安定性をないがしろにしたことは重大な失政です。
2つ目は、政権全体に無責任体制が敷衍(ふえん)したこと。政治はあらゆることに結果責任が伴いますが、安倍さんは閣僚の任命責任を一度も取っていません。閣僚が不祥事を起こすたびに「責任を痛感している」と繰り返すだけで、責任を「取る」ことをしない。財務省公文書改ざん事件で近畿財務局の職員が亡くなったことに対しても、麻生太郎財務相、安倍首相ともにまったく責任を取る様子はない。こうしたトップの姿勢が政権全体、ひいては官僚組織における無責任体質につながりました。
3つ目は長期政権の病理です。よく「安倍一強」といわれましたが、これは選挙に強く他に対抗馬がいないというだけです。政府・与党内での政策論争が全くないので、実は政治的には非常に脆弱(ぜいじゃく)な政権でした。良しあしは別としても、本来は派閥間で活発な政策論争をしてきたことが、保守政権の強みでした。しかし、安倍一強と言われたこの8年弱は、まったく政策論争が行われなかった。そこまで自民党の力が落ちてしまったということです。
安倍さんはよく「悪夢のような民主党政権」と言いますが、野党時代の自民党が与党にどういう批判をしていたのか完全に忘れている。東日本大震災、原発事故対応について自民党は民主党を痛烈に批判しましたが、では今のコロナ対応はどうなのか。そうした他者批判を自己批判に向けるという姿勢がまったくないのです。その謙虚さがないから、強くならない。相手をたたくだけで満足してしまう政治になってしまいました。もちろん、これは今の野党にもいえる課題です。
―安倍政権の7年8カ月を振り返ると、前半は特定秘密保護法や安保関連法案の強行採決など、強権的な政権運営が目立ちました。一方で、後半は森友・加計学園問題、桜を見る会など安倍首相個人の周辺から不祥事が噴出しました。その背景には、安倍首相個人の振る舞いや言動も関係していると思いますか。
加藤氏 それが関係しているかは、僕にはわかりません。ただ、安倍さんは65歳という年齢の割には、とてもチャイルディシュ(子どもっぽい)だという印象です。国会での品のないヤジをみると、人間的には未熟に感じます。気持ちを抑えられないのでしょう。すぐに「悪夢のような民主党政権」と言うのも、先ほど述べたように他者批判を自己批判に向けられない人の典型です。これも子どもの所作です。
そうした未熟さがあったから、側近たちに、間違った知恵をつけられて信じてしまった部分もあるのかもしれません。コロナ対応における、アベノマスクや自宅で犬とくつろぐ動画配信などは、どう考えても民意を見誤っています。
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