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「どうだ。まだその方は白状しないか。」
閻魔大王は鬼どもに、暫く鞭の手をやめさせて、もう一度杜子春の答を促しました。もうその時には二匹の馬も、肉は裂け骨は砕けて、息も絶え絶えに階きざはしの前へ、倒れ伏してゐたのです。
杜子春は必死になつて、鉄冠子の言葉を思ひ出しながら、緊かたく眼をつぶつてゐました。するとその時彼の耳には、殆ほとんど声とはいへない位、かすかな声が伝はつて来ました。
「心配をおしでない。私たちはどうなつても、お前さへ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何と仰おつしやつても、言ひたくないことは黙つて御出おいで。」
それは確に懐しい、母親の声に違ひありません。杜子春は思はず、眼をあきました。