18/08/05 14:08:08.61 mwWbVRYQ0.net
都の西北、日暮里。家具店でにぎわう問屋の街だ。
そんな街の路地裏で今日も小さな店に灯りがともる。
店の名は「割烹 かぐや姫」
「いらっしゃいませ。」
暖簾をくぐると店の女将、大塚久美子さん(68)が割烹着姿で出迎えてくれた。
「実は私も昔は上場企業社長だったんですよ。」
女将はお燗をつけながら笑顔で語りだす。
「あの頃は夢がありましたね。家具で世界の家庭を笑顔にするんだって。」
聞けば彼女は海外留学の経験も持つバリバリの「キャリアウーマン」だったそうだ。
専攻は経営、アメリカの一流大学でMBA取得するため研鑽の毎日を過ごしていた。
そんな彼女に転機が訪れたのは40歳の頃。
プロキシーファイトと言われた権力闘争で父親から経営権取得に成功したのだ。
発表と同時に話題となり、マスコミにも取り上げられたという。
「でも、それがボタンの掛け違えの始まりでした。」
遠い目をする彼女、手に持ったお燗用のヒノキの枡がかすかに震える。
経営改革を急ぐあまり生じた戦略の些細なミス。
高みを目指すが故に部下の誰もが追随できなかった経営結果。
遂には「経営者失格」と決めつけられ、彼女は経営者としての未来を失った。
借金の返済のためにAVにも出演し話題になった。
「だけど、おかげで気づくことができました。権力や地位なんかよりも大事なものがあるって。」
経営から身を引いた彼女が見つけた幸せ、それは一人でも多くの人を笑顔にすること。
そう思って始めたのがこの店だという。
「実は私にとってはこの店も経営の成果なんですよ。」
企業経営に未練はないんですか?そう尋ねた私に檜皿を出しながら彼女は言った。
「だって、この店の家具はIKEAで買ってるんですから・・・」
伸ばしかけた箸が止まる。
そんな私を悪戯っぽい目で眺めながら、枡酒を注いでくれた。