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リツアンは静岡県掛川市に本社を持つ技術系人 材派遣会社(社員272名)である。近年業績を急 拡大させ、トヨタ自動車や日産自動車のグループ 会社、いすゞ自動車や日本電気(NEC)、ソフト バンクなど、名だたる大手企業へのエンジニア派 遣を増やし、最近では国産初のジェット機 「MRJ(三菱リージョナルジェット)」を開発 している三菱航空機でも採用が決まったという。
●人材派遣会社の暗部に触れ、創業を決意
リツアン社長の野中久彰氏にお会いすると開口 一番、「弊社の派遣社員と他社の派遣社員を比較すると、10年で1500万円の給料の差が出ます。 弊社で働くと家を建てられますよ」と笑顔で語り 始めた。
世間では給料が低くて不安定というイ メージのある派遣で、なぜ10年で1500万円とい う差が出てくるのか。そこを深掘りしてみると、 派遣業界のダークな側面が見えてきた。
野中氏は、もともと大手技術系派遣会社で正社 員として働いていた。そこで、派遣社員に対する 搾取ともいえる現実を目の当たりにしたという。
「派遣先企業から派遣料が月60万円支払われて いたとしても、派遣社員に実際に支払われる給料 は20万円台です。手取り10万円台前半の派遣社 員も多くいました。
会社は一人の派遣社員から月 30~40万円も利益を得ているのです。
クライアントから支払われる派遣料からどれだけ抜かれているかは、派遣社員には全く分からないよう になっていました」(野中氏)
こんなこともあったという。派遣社員であるA 氏と飲みに行った時、A氏からこう切り出された そうだ。
「僕には小学生になる子供がいます。今の給料で は子供の学費も心配ですし、将来の生活もどうな るかわかりません。会社を辞めたいと悩んでいま す」
野中氏はA氏の派遣先企業からどれだけの派遣 料が支払われ、どれだけのマージン(手数料)を 派遣会社が得ているかも知っていた。
マージンの 一部をA氏に還元しても会社は困らないはずだと 考えた野中氏は、上司にA氏の給料を上げるように掛け合った。しかし返ってきた答えは非情なも のだった。
「何を言っている。もっと利益を上げろ。もっと 契約を取れ。今期の目標は前年比120%だ」
派遣社員を無機質な商品のように扱う上司の態 度に野中氏は愕然としながら、ふと自分の父親の 姿が浮かんだという。
「私の父親はレストランを経営していました。で もすぐに経営に行き詰まり、私が小学校低学年の ころにはお店をたたんでしまいました。その後、 父はトラック運転手や警備員など職を転々としま した。料理しかできない不器用な父でしたから、 どんなにがんばっても給料が低く、いつもお金に 困っていました。
私は子供ながらいつも疲れてい る父親を見ては心配していました。
会社を辞めた いと相談されたA氏と、私の父親が重なって見え ました。彼の子供は、昔の自分のように思えたの です。彼が会社のためにがんばるほど、彼の家族 は不幸になる。私はまるで自分が罪を犯している のではないかと思うようになりました」(野中 氏)
これがきっかけとなり野中氏は会社を辞め、 “ピンハネ屋”と言われてきた人材派遣の仕事を根底から変えていくと決意した。そして創業したの がリツアンだ。
●業界のタブーに挑戦
リツアンを創業して、いきなり業界のタブーに 挑戦する。派遣社員の給料をオープンにしたのだ。
ホームページにも派遣賃金(給料)規定を公 開した。派遣社員の給与明細には、派遣先企業か らいくら派遣料が支払われ、リツアンがいくら手数料を取り、社会保険料がいくら引かれている か、すべて記載されている。
派遣社員の個別のマージンを公開するなど、業界の常識では絶対にあり得ないことである。
企業秘密であり、ブラックボックスになっていた情報だからだ。しかし、それを明らかにすることこ そ、野中氏が目指す理想の派遣会社の「一丁目一 番地」だったのだ。
ソフトウェア、機械設計、研究開発の3つの分 野の全国平均マージン率は39.1%だ。しかし、リツアンの場合、入社1~3年の「時給制」のマー ジン率は29.4%、