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プーチン発言に対し菅義偉（すが・よしひで）官房長官と岸田文雄外相は翌１７日の記者会見で、
２５年４月の日露首脳会談後に発表された共同声明に言及し「平和条約問題の双方に受け入れ可能な
解決策を作成する交渉を加速化させる点で合意している。ロシア側も合意に従って真剣に交渉に臨む
ことを期待する」と異口同音に述べた。菅、岸田両氏は、外務官僚が事前に作成した「応答要領」を
棒読みしているだけで、政治家として毅然（きぜん）とロシアに反論する気があるのか、はだなだ疑問である。
そして、またしてもプーチン政権幹部の「不規則発言」である。ロシア政府系ロシア新聞（電子版）
によると、ラブロフ外相は５月１８日、ロシアによる北方領土領有は「第２次大戦の結果」という
認識を改めて示した上で「日本は（国連憲章の敵国条項を無視して）大戦の結果に疑問を挟む
唯一の国だ」と述べ、領土返還要求を強く牽制（けんせい）した。
この発言に対し、菅官房長官は記者会見で「根拠がない」と一蹴し、年内の実現を目指すプーチン大統領の
来日への影響に関しては「全くない。日本の立場はしっかり主張しながら、ロシア側に粘り強くそこは説明
していきたい」と述べた。これも外務官僚が作成したペーパー通りの回答だろうが、この機に及んでなおも
プーチン大統領の年内来日実現に固執している様子は滑稽というより痛々しいくらいだ。
モスクワで５月９日開かれた対独戦勝７０周年式典に関し、安倍晋三首相はロシア側の招待を断り欠席した。
ウクライナ情勢をめぐってロシアと対立する米国はじめ先進７カ国（Ｇ７）首脳がそろって式典への
欠席を決め、それに足並みをそろえた形だが、７０年前に当時のソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して
北方四島を不法占拠したままの上、約６０万人とされる日本人のシベリア抑留問題も未解決である現実も
踏まえれば、当然のことである。
しかし首相自身は直前まで出席の可能性を模索していたというから、なんともおかしな話だ。
北方領土問題解決に向け、停滞する対露関係を少しでも動かしたいという思いがあるのだろうが、
プーチン大統領を買いかぶりすぎではなかろうか。
日本のメディアの多くは、日露両国が領土問題を解決できない理由として日本側が４島返還を主張しているのに対し、
プーチン氏は２島返還で決着したがっていると紋切り型の見立てを示しているが、これこそ根拠なき定説である。
「２島を返してやると言っているのに、日本は４島でないとダメなんでしょ」
そんなことをつぶやいているであろうプーチン大統領にすれば、日本の世論が２島返還での決着を
容認しないことは織り込み済みで、２島どころか石ころ１個も日本に引き渡したくないのが本音だろう。
そもそもプーチン大統領を「強い指導者」「決断できるリーダー」などと持ち上げ、
領土問題解決に期待を寄せること自体、間違っているのだ。
ロシアが関与を強めるウクライナ問題の長期化は不可避である上、２国間の問題だけをとっても
プーチン政権に日本との領土交渉や関係改善に真摯（しんし）に取り組む空気はないことは明白だ。
さきの日米首脳会談で安倍首相がオバマ米大統領と同盟関係の深化を高らかと宣言したことも、
ロシア側は態度を一層硬化させる口実にしてくるだろう。
北海道の漁船が多く操業するロシア２００カイリ内のサケ・マス流し網漁を来年から禁止する法案が、
ロシア下院で可決される公算が大きくなっている。原案通り成立すれば、戦前から続く歴史を持ち、
道内産業の発展に貢献してきた北洋のサケ・マス漁が、今期で最後となり、日露関係にさらに
深い影を落とすことは不可避だ。
日露関係筋は、ロシア側が次なる対日カードとして、平成１０年２月に日露間で締結された北方領土
周辺水域での日本漁船の安全操業枠組み協定の「破棄」をちらつかせてくる可能性もあると指摘する。
政府には、ロシア側が唐突に仕掛けてくる前に「予防措置」をとることが求められるだろう。
政府関係者によれば、それでも首相は、過去１０回会談したプーチン大統領との「個人的信頼関係」
をよりどころに両国関係の打開を目指す意向のようだが、前出の日露関係筋はこう言い切る。
「プーチン氏の年内来日はおろか、彼を信頼することこそ幻想だ。日本は対露戦略を根本的に
練り直すときに来ているが、焦ることもない。急いてはロシアに食い逃げされるだけ。
要は国益を見据えてじっくり動くことだ」