24/11/14 09:11:16.78
>>6の続き
●困難はトランプも同じ
では、選挙に勝ったトランプの側が経済を改善できるのかというと、これは非常に難しいと考えられます。
3つの問題が直ちに浮かび上がってくるからです。
1つ目は、タイミングと巡りあわせです。2016年の第一次トランプ政権発足の際には、
何もしなくても景気も株価もピークへ向かってプラスの動きをしていました。
何よりも、リーマン・ショックの傷の深い2009年に政権を継承したオバマは、
良くも悪くも景気の足を引っ張らないということを基本に、8年を何とか完走したのでした。
雇用という面では、この8年は急速な自動化と空洞化の加速する8年でしたから、問題は山積しており、
そのために茶会が暗躍したり、ヒラリーは落選したのです。
ですが、とにかく企業業績を妨害しないオバマの8年は、ゆっくりと景気を改善させた8年でした。
ですから、これを受け継いだトランプは、何もしないでもトランプ株高とトランプ景気を実現できたのです。
ところが、現在は全く状況が異なります。コロナ禍で知的産業は全く痛手を被りませんでした。
リモート勤務が機能したからですが、その一方で全国にはカネがバラまかれました。
知的産業と知的労働者はキャッシュを溜め込み、コロナの影響を受けた部分にはダイレクトにカネがまかれた中では、
ポストコロナの時代にはカネが余り、バブルとなるのは不可避でした。
加熱した経済は物価を押し上げました。この物価に関しては、連銀のパウエル議長が瀬戸際の金利政策を続けています。
つまり、景気の冷えそうな局面では金利を下げてアクセルを踏み、景気がオーバーヒートしそうになるとブレーキを踏む、
つまり金利を下げないことで、「景気を失速スレスレまで抑制」しているのです。
現時点では、パウエル氏は「トランプでも自分をクビにはできない」と強い態度に出ています。
これはトランプが景気を「良くする」方向に政策の舵を取ってしまうと、物価も上がってしまうからで、その匙加減は自分に任せて欲しいという意味です。
いずれにしても、トランプは雇用を改善し、物価を下げることを民意から期待されていますが、これはほとんど不可能と言えます。
タイミングが悪すぎるからです。
2番目の理由は、テック業界の不透明感です。
前述したように、家庭用デバイスはスペックの上限に近づき、メタバースやAIの経済効果は今のところ試行錯誤です。
EVも自動運転車も、何もかもが中途半端です。
例えばですが、レーガノミクスの軍事費拡張のように、軍拡に行くというのもあるかもしれませんが、トランプ主義とは相容れません。
技術革新のサイクルが文明のレベルで壁に突き当たっているのは明らかで、簡単にこの問題はプラスに転じることはできないと思います。
3番目の理由は、「アメリカ・ファースト」理論の難しさです。日
本の場合は、多国籍企業、つまりメーカーや商社がほとんど無限に産業空洞化を進めていますから、
少しでも「自国のGDP」を意識した政策に気づけば、国内経済は改善します。
ですが、アメリカの場合は、関税を上げても製造業回帰とはならないと思います。
例えば、中国からの輸入に倍額の関税をかけるとして、スマホの製造を強引に国内に移転したら、
テスラのようにロボット工場ができるだけです。自動車のEV化を否定して、ガソリン車を継続するとしても、
エンジン組み立てという工程は、中国が「世界の工場」になっている事実は否定できません。
これをアメリカに戻すのは難しいですし、そもそもトランプに投票した人の中にエンジン工場で働きたいという人は、ほとんどいないと思います。
更に中国製品に関税をかけた場合に、生活用品、家電製品、雑貨類などの軽工業がアメリカに戻って来るとも思えません。
結果的に、関税の分だけ物価が上がってしまうわけで、こちらも難しいのです。
トランプ運動における製造業回帰というのは、相当な部分がファンタジーであり、
過去に製造業に従事していた人の名誉の問題をイデオロギーにしただけです。
ですから、本当にアメリカには製造業が戻せるのかは疑問です。
仮に無理にそうしたとして、ボーイングのサウス・カロライナ工場のように、
運営の苦しみをどう乗り越えるのかという問題は避けて通れません。
製造業という中付加価値の産業を支えるだけの中付加価値労働をコスパ良くできる労働力は、アメリカには決定的に欠けているからです。
続く