23/12/24 17:09:28.02 ALCFg7l8.net
つづき
6. ヒルベルトスキーム.
更にいくつか質問をしたところ, Vafa-Wittenの仕事[V-W]があることを教えて頂いた. (この辺の事情については[N7].) これには, またまた驚いてしまった.
平たく言えば, 4次元多様体の上のインスタントンのモジユライ (ベクトル束のモジユライ) 空間のポアンカレ多項式の母関数が保型性を持つ, というのである.
これは, 物理でのS-dualityと呼ばれるものの帰結らしく, Vafa-Wittenの論文をみると, ALE空間の場合の中島さんの結果を用いて, 彼らはその主張を検証しているのである. 他に吉岡康太氏のCP2の場合の結果[Yo]などでも検証していた.
ここでいうS-dualityとはN=4の超対称性を持つ4次元ゲージ理論における強結合領域と弱結合領域を反転させる双対性であり, この際 (複素化された) 結合定数が保型性に関わる.
4次元多様体だけを見ているだけでは, 上の母関数が保型性を持つなど全く想像できないことであり, 驚くべきことである.
論理的なことを言えぼ, S-dualityは証明されている性質ではなく, Vafa-Wittenたちが, 中島さんたちの計算結果を使ってS-dualityの状況証拠を固めたと言うべきかもしれない.
ほぼ時期同じくして, (物理の) Seiberg-Witten理論[S-W]が出てきており, ここにきてどうも, ALE空間に限らず一般の4次元多様体の世界の裏にも本当に2次元が隠れているのではないか, という印象を強く持ち始めてきた.
(断っておくが, 中島さんの5節の仕事はそれよりも早くに4次元と2次元の関わりを例示していたのである.)
この頃から, 中島さんは, 「多様体一つを調べていてはダメで, 全部まとめた「もの」を考えて初めて構造が見えてくる」とよく言われるようになり, 「この「もの」を母空間」と名付け, これこそが22世紀 (21世紀ではない) の幾何学の対象であるべき, と主張されるようになった.
その意味で, 個々の「多様体」はむしろ「単調体」とでも言うべきものである,
ということは, 幾何学賞授賞講演の折りも力説されていて, 記憶に新しい. 多様体だけでは空間概念としては不十分という認識に共感を持つ人は少なからず存在すると思うが, それを母空間と名付けてみたことで, むしろ言葉が一人歩きしたようなこともあったように思われる.
なにしろ, その頃は幾何学について非常にシニカルであり, よく表現論と比較して幾何学のあるべき姿についての自説を説いておられ, よくお叱りを受けたものである.
7. えびら多様体.
略
(引用終り)
以上