20/09/01 06:57:29.22 pGoi0nQw.net
>>70
つづき
層の定義を述べよう.
Fが多様体M上の層とは
1.Fは位相空間であり,Fから底空間Mへの一意写像π(これを射影という)が存在する.即ちPεF→π(P)=xεM.
2.M上の各点(x)に対し,πの原像Fx=π-1(x)は加群を作り,Fxの位相はFの位相について分散的である.
3.PεFの近傍Uと,x=π(P)εMの近傍π(U)とは位相合同である.
4.Fx上の加法は,Pの位相について連続写像である.
これが層の定義である.Mが複素解析多様体のとき,
解析的要素の集合は層を作るが,それは唯一つの層ではない C∞-多様体上のC∞-函数の全体についても層を
考えることができる.そこで'解析的な層'だとか,‘C∞の層'を考えることができるが,
C∞-理論は層を要しないでも得られるものであるに対し,複素解析的理論は層によって初めて明かになし得られたものである.
P64
この層の定義はH.Cartanによるが,それは岡潔君
の不定域イデアルの概念を基に抽象化し公理的に述べた
ものなのである.(尤も他方Lerayが別の立場から層を
考えてはいたが.)かかる不定域イデアルとか,層とかい
うような概念が生み出されざるを得なかった根本的な因
由は,実にn≧2なることに存する.n=1ならば問題は
なかった.η=1ならば,複素直線(即ちガウス平面)
の完備化(無限遠点を追加して閉じた面とする)は唯一通りよりなくわれわれの慣れている数球面(即ち射影直
線)を取ることであるに対し,n≧2の場合には複素アフィン空間の完備化は幾通りにも可能である.というよ
うに,n=1とn≧2とでは根本的な差があるのである.
n=1ならば閉じていさえすれば,どんな複素解析的な
Riemann多様体もすべて射影空間に入って了うが,n≧2の場合には閉じていても,射影空間(どんなに高次元
にとっても)には入り得ないものが存在するのである
(これは直ぐ円環体で例示される).即ちn≧2では最早
や射影空間(といっても複素的射影空間であるが)は絶
対者ではあり得ない.すると射影空間に入るような閉じ
た解析多様体の特性如何という問題が直ちに提出されよ
うが,これに解決を与えたのが小平君である.即ちHodge型の多様体(説明は省くが基本的な概念だけで規定
されるものである)は射影空間に入る(逆は自明)とい
う定理である.
つづく