19/08/14 10:07:42.11 Qpe2jc/f.net
つづき
前小節でも述べた我々の目標は,一般の体上の代数多様体,あるいはより広
く,一般のスキームに対してこの Betti コホモロジーの類似を定義することである.
最も自然に思いつく方針は,スキームの Zariski 位相に関して同様に定数層係数
コホモロジーをとるというものだと思う.しかし,これは全くうまくいかない.
例えば,X を既約なスキームとすると,X の任意の空でない開集合は連結であるか
ら,X 上の定数層 Z は軟弱層となり,その 1 次以上のコホモロジーは消えてしまう.
また,k を無限体とすると A1k と P1k の底空間は同相なので,もしスキームの底
空間のみからコホモロジーが決まるならばこれらのコホモロジーは同型となるはず
であるが,一方 A1C と P1C の Betti コホモロジーは明らかに異なっている.
スキームの Zariski 位相だけを見ていたのでは不十分であるということである.
注 1代数幾何でよく現れる構造層係数コホモロジー Hi(E, OE) は 0 次と 1 次が 1 次元,2 次以上が
0 となるのでこの条件を満たさない.同じ「コホモロジー」の名を冠してはいるが,別種のものと考
えた方がよいだろう.
注 2ここでは,位相空間上の層やそのコホモロジーに関する知識をある程度仮定して話を進める.詳
しく知りたい方は [KS] や [Ive] を参照していただきたい.
注 3以下では,断りがなければ常に層としてはアーベル群の層を考える.
そのためもっと非自明なアイデアが必要なのであるが,それを説明する前に層を
圏論的な言葉で解釈しておこう.位相空間 X に対し,圏 OpenX を次のような圏
とする:
・ 対象は X の開集合.
・ V , U を X の開集合とするとき,V から U への射は包含写像 V ,?→ U.
(Vが U に含まれるなら射は唯一,そうでないなら射はない.)
このとき,X 上の前層は OpenX から Ab への反変関手に他ならず,前層の間の射
とは反変関手間の射に他ならない.前層が層になるための条件について考えよう.
つづく