16/08/11 09:49:32.93 AONA9sxo.net
>>669 つづき
4 まとめ-いま数理物理学になにが起きているのか
この章では、前章で述べた「ソリトンの数理」をその一部として含む数理物理学の世界でいまなにが起きて
いるのかを簡単に紹介して、本講義のまとめに代えたいと思う。専門用語が説明無しに出て来るけれども、お
話と思って聞いてもらいたい。若い世代に多いといわれる「やることはもう残っていないのではないか」とい
う考えが誤解であって、たくさんのおもしろい問題が解決を待っていることを感得して頂ければ、充分である。
前章で紹介した「ソリトン物理学」における非線形発展方程式(サイン・ゴルドン方程式)の厳密解は、数
理物理学における最近の成果のひとつである。ソリトン方程式が厳密に解くことができるのには、理由があ
る。この1960 年代後半に始まった「ソリトン方程式の数理の解明」をきっかけとして、いま数理物理学の世
界では、物理学と数学のいろいろな分野にわたってお互いに密接に関係しあいながら、ひとつの大きな「数
学」が形成されつつある。
この「数学」は、ソリトン理論、量子可積分系の理論、素粒子の弦理論、無限次元リー代数、代数幾何学、
無限次元の確率論などを巻き込んで、いま大きな渦のようなうねりを見せている。まだまだこの先になにが飛
び出してくるのか予想もつかない。そして、この新しい数学が全体としてどういう姿になるのかは、未だ研究
者の頭の中に漠然と想像されているにすぎないのである。
そんなわけで、この「未完の数学」のもっとも良い「応用」は、素粒子物理学の最終理論(Theory of
Everything)と目されている「超弦理論」がそのひとつであると考えられている。その他、固体物理学の分野
でも「量子ホール効果」や「高温超伝導」の理論において、その成果が得られつつある。物理学の解明が数学
の進展と手をたずさえて進んでいるのである。こうして、あたかも「ニュートン力学」の完成が同時に「微分
積分学」の成立でもあったように、物理学上の問題が新しい数学をいま生みつつあるとおもわれるのである。
(引用おわり)