16/08/11 00:09:25.28 AONA9sxo.net
>>655 つづき
ソリトンの花園が一転、荒野へ
大学院に進んでからもソリトン研究を続けました。修士1年の時には、あるクラスの方程式は皆2ソリトン解という2つのソリトンが安定に相互作用することを示す解を持つという新しい定理を発見して、これが戸田先生にとても褒められたのですが、学界で評価されるためには、英文論文を発表しなければなりません。
ところが、なかなか良い英文が書けない。それから2年も七転八倒して、博士課程に進んでからようやく、もっと精緻な理論で英文論文をまとめることができました。
論文は博士2年の時に、日本物理学会のJournal of Physical Society of Japanという英文論文誌に採録されました。刊行されると、世界各国の研究者から、「抜き刷りを送ってくれ」という請求のはがきを何十通ともらいました。
当時はeメールもコピー機もない時代ですから、すべて郵便でのやりとりです。はがきはスクラップブックに大切に保存してあります。
産みの苦しみを経て、それから続けざまに8編も英文論文を書きました。「自分はようやくソリトンという神秘の花園に降り立ったんだ!」と、やる気満々だったのですが(笑)、じつはそれも残念ながら長くは続きませんでした。
というのも、佐藤幹夫先生という天才的な数学者が、代数的なアプローチでソリトンをいくつかの類型に分類してみせてしまったのです。「こういうタイプのソリトンしか現れません」と非常にスマートな説明をされてしまったために、神秘的な花園は一瞬にして、草一本生えない荒野になってしまった。
佐藤先生の研究は、私の研究を出発点の一つとしてずっと先に行ってしまったような側面があり、ソリトンは自分にとって魅力的な研究対象ではなくなってしまったんです。
1981年に博士学位論文を書いた後、180度研究の方向を転換して代数的なアプローチでは解けない世界へ行こうと考えました。ただし、厳密に解を得ることは絶対です。数式で解けない世界ってなんだろうということで、コンピュータの「数値計算」の世界へ入っていきました。
つづく