24/10/15 22:01:38.05 Fb27NKgU.net
>>881
運転席の真後ろ、後部座席から声が聞こえた。「あんた、ほんまに大丈夫でっか。この車、ぶつけたら、えらいことでっせ。この3人で、1億くらいの値打ちはありまっしゃろなあ。えっへっへっへっ」。吉田監督の声だった。
わたしが運転席で、ハンドルを握っていた。後部座席に吉田監督と岡田彰布選手、そして助手席には真弓明信選手が座っていた。84年のオフ、12月のことだった。
テレビ局主催のゴルフ大会が兵庫県の吉川で開かれた。吉田さんは2度目の監督に、就任した直後だった。駆け出しトラ番のわたしは、取材で行っていた。コンペが終わり、表彰式が始まった。
「デイリーの記者さん、運転免許持ってるよなあ。おれ、ビール飲むから、帰りの車を運転してくれる?」。真弓さんから、気楽に声を掛けられた。「いいですよ」。
キーを渡されて、駐車場に行った。大きなBMWだった。左ハンドルの外車。わたしは国産のファミリーカーしか運転したことがない。緊張しながら玄関に向かった。
なぜか吉田監督と岡田選手が、後部座席に乗り込んできた。「梅田のホテル阪神でパーティーがあるから、そこまで乗せて行ってくれ」。何食わぬ顔で、真弓さんが助手席に乗った。
いまさら「外車を運転したことがない」とは言えない。中国自動車道の左車線を、ゆっくり走った。冷や汗が出た。ライトを点(つ)けようとしたら、ワイパーが動きだした。
吉田監督が身を乗り出して、あれこれ話し掛けてくる。「あんだ、デイリーでっしゃろ。この間の記事、山和(山本和行投手)が大リーグ行くとか、だれが書きましたんや?」「いや、それは」。いまはそれどころじゃない。とにかく、ライトを点けないと…。
「そんなん●●さんに決まっとるやん」と岡田選手が答えた。真弓さんが笑いながら、ライトを点けた。大阪市内に入った。免許を持っていなかった岡田選手が「そこ曲がって。違う、その先の道や。こっちの方が早い」と裏道を指図する。
「あの記事は、ほんまでっか」「あんなん●●さんが言わしたんやろ」。また岡田選手が答えた。しゃべり続ける吉田監督を無視して、真弓さんだけはずっとニヤニヤ笑っていた。=敬称略=