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★大きすぎるオバマの負の遺産 南シナ海情勢の今
7つの環礁に前方展開基地が誕生、トランプはどう立ち向かうのか
2017.1.5(木) 北村 淳
(中略)
■対抗措置をとらなかったオバマ政権
オバマ政権最後の年ということで、中国は南沙諸島の7つの人工島で軍事施設の建設を
加速させただけではなく、西沙諸島の軍事的防衛態勢も強化し、フィリピンから奪取した
スカボロー礁の軍事拠点化を進める態勢を明示し始めた。それに対してオバマ政権は
(中国側の期待通り)効果的な対抗措置をとることはなかった。
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米海軍戦略家の多くは中国による人工島建設の動きを事前に探知し、オバマ政権に
「中国の南シナ海における拡張政策にストップをかける諸対策を実施すべき」との進言を
繰り返していた。しかしながら、中国との深刻な軋轢を何よりも恐れていたオバマ政権は、
そうした提言に耳を貸そうとはしなかった。
2015年後半になって、かなり進展した人工島建設状況をCNNが実況して騒ぎになると、
ようやくオバマ政権は中国に対する牽制作戦にしぶしぶゴーサインを出した。
しかし、海軍が許可された「FONOP」(公海航行自由原則維持のための作戦)は
あくまで中国側を過度に刺激しない限度に制限されたため、さしたる効果が期待できる代物ではなかった。
2016年にオバマ政権がアメリカ海軍に実施を許可したFONOPはわずか3回である。
それらは、いずれも中国が実効支配中の島嶼・環礁に接近した海域を、
国際法によって軍艦に与えられている無害通航権の範囲内で“平穏無事”に通過するだけの、
中国にとっては痛くも痒くもないレベルのデモンストレーションに過ぎなかった。
おまけにそれらのFONOPは、中国側にさらに次の行動を起こさせる副作用まで引き起こしてしまった。
つまり中国側は、全く軍事的脅威など受けていないにもかかわらず、「アメリカ海軍が中国の領域に
軍事的威圧を加えてきたため、中国の領域を守り、島嶼に居住する人民を保護するため」と称して、
アメリカがFONOPを行った島嶼環礁やその周辺の人工島に地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル
部隊を配備したのである。
このようにオバマ政権の“腰が引けたFONOP”は何の牽制効果ももたらさず、中国がせっせと
南沙人工島や西沙諸島で進める軍事施設の充実を後押ししただけの結果に終わった。
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■トランプ新政権の出方は?
トランプ新政権の海軍長官には、以前より南シナ海問題での対中強攻策を主張してきた
フォーブス議員(あるいはフォーブス議員と同じ海軍戦略の唱道者の誰か)が就任するとみられる。
したがって、南シナ海における中国の軍事的拡張政策に対するトランプ政権の態度が強硬な
ものとなることは間違いない。
とはいっても、すでに西沙諸島には立派な軍事拠点と政府機関それに商業漁業施設などが
誕生している。また、7つの人工島でも軍事施設と民間施設の建設が完成の域に近づいており、
スカボロー礁での中国の実効支配態勢も盤石になってきている。したがって、アメリカが中国に
それらの軍事施設や人工島からの撤収を迫ることは、かつて日本に対して満州からの総引き
揚げを迫ったのと同様に、戦争を意味することになる。
そのため、いくら対中強硬派がトランプ政権の南シナ海政策を舵取りするとは言っても、
アメリカ自身の領土が侵されているわけではない以上、対中軍事衝突といったような
選択肢をとるわけにはいかない。なによりも、オバマ政権の8年間でアメリカの海洋戦力は
大幅に弱体化してしまっているので、中国との戦闘を覚悟した対中強攻策などは全く
論外のオプションである。
当面の間は、トランプ次期大統領が口にする「アメリカ第一」という標語の通り、中国の南シナ海
侵攻戦略への対抗以前に、アメリカ自身の海洋戦力再興を推し進めることにプライオリティーが
置かれることには疑いの余地はない。あくまでもアメリカの海洋戦力が強力になってから、
次の一手が開始されるのだ。
もっとも、オバマ政権と違って、中国の侵略的海洋政策に断固として反対する立場を明示するために、
より頻繁に、そしてやや強硬なFONOPを南シナ海で実施することになるであろう。
その際、日本にもFONOPの参加を(オバマ政権とは違って)強く求めてくる可能性が高い。
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