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★尖閣は海保が守り抜く
佐藤雄二 （前海上保安庁長官）
2016.08.22 07:30
七月十二日、中国の主権が南シナ海のほぼ全域に渡って及ぶとする「九段線」と呼ばれる主張について、
国際仲裁裁判所は「法的根拠はない」とする判断を下しました。中国はこの判断の無効を主張していますが、
南シナ海での権益侵害に、国際法の観点から明確な判断が示されたことは画期的でした。
近年、東シナ海など日本の周辺海域でも中国の海洋進出によって、多くの事案が発生しています。
日本は中国との間で緊張を高めることなく、法執行という非軍事的手段によって主権を守り抜いて
いかなければなりません。その際、海上の最前線で中国と向き合うことになるのが海上保安庁です。
長官時代、私が最も注力していたのも尖閣諸島周辺海域における対応でした。
今年六月まで三年間にわたって海上保安庁長官を務めた佐藤雄二氏（62）。
佐藤氏は国土交通省キャリア組の指定席だった長官ポストに、初めて現場生え抜きとして
就任したことで注目を集めた。「現場を知る長官」に、日本の領海における“現実”を聞いた。
就任時は「生え抜き」であることが強調されましたが、それを強く意識することはありませんでした。
とはいえ、当然ながら現場での実体験を持っていたことは、メリットだったと思います。
例えば、中国に対する問題についても、一九九七年から四年間、尖閣諸島周辺で領海警備に
従事していましたから、尖閣で働く職員がどういう気持ちで、何を悩み、何を欲しているか手に取るように分かります。
私が現場にいた時代は、毎年春と秋に、尖閣は中国固有の領土であると主張する保釣協会という
台湾と香港の民間団体が、漁船で大挙して押し寄せていました。彼らは過激な活動家で、
示威的な行動をしたり、尖閣に上陸したりしていました。
多い時は三十隻、四十隻もいたので、私たち海保も船を掻き集めて五十隻、六十隻で駆けつけて行きます。
私は当時、二十隻弱の船隊の指揮を執り、“活動家の首謀者”が乗る船を対象にしていました。
とはいえ、あくまで警察活動として対処しなければなりません。海保の船で周りを囲んで進路規制をしたり、
放水することもありました。
尖閣での任務は相当ハードなものです。遠方海域ですし、時化のときは波も荒い。
相手も小型漁船なので勝負は一、二日で終わりますが、現場ではとにかく動き回りますから、
まったく寝られず、食事をする余裕もありませんでした。
尖閣の海域を担当する第十一管区の船だけでは足りませんので、応援を頼んでいました。
北は北海道、南は九州から派遣されるのですが、北海道だと片道五日もかかる。
派遣職員は現地に一カ月以上滞在するので、家族と会えなかったり、連絡が取りづらかったりする。
これもかなりの精神的負担になっていました。
当時から今日までの約二十年間、中国がどのように海洋進出を果たしてきたか。
振り返れば、私が尖閣の最前線で勤務していた時期は、中国という「国家」は前面に出てきませんでした。
まだ、そこまでの国力がなかったのです。
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■驚きのサンゴ密漁事案
ところが、胡錦濤政権時代の二〇〇八年頃から様子が変わります。
突然、中国公船が尖閣諸島の領海に侵入してくるようになり、さらに日本政府が尖閣三島を
取得・保有した二〇一二年九月以降は、中国公船が常時徘徊するようになりました。
そして同年十一月に中国は「海洋強国」施策を打ち出します。前年に日中のGDPが逆転した
こともあって、私も当時、「満を持して出てきたな」という印象を受けました。
私が長官に就任したのは、その「海洋強国」という方針を掲げた翌年、二〇一三年八月のことでした。
就任直後には多数の中国公船が常時現れ、月に六～八回も領海内に侵入していました。
非常に緊張した状態で、海保の役割は、海域の緊張を緩和させ、外交交渉ができる環境を
作ることだと認識していました。
中国による領土や海洋権益を侵害する行動には、他にも幾つかの方法があります。
ひとつは海洋調査です。海洋資源の探査等を目的として周辺国の同意のない調査を強行したり、
事前の届出とは異なる場所、異なる期間で調査を行っています。（以下リンク先で読んでください）
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