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★イギリスのEU離脱は経済的に合理的な選択だ
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]【第68回】 2016年6月30日
「イギリスのEU離脱は経済的に不合理な決定であり、世界経済を混乱させる望ましくない決定だ」とされることが多い。
しかし、この議論は大いに疑問だ。とくに、金融活動について、イギリスの離脱には十分な理由がある。
■大勢だった残留支持の論調
■離脱で短期的には世界経済が混乱
イギリスのEU離脱問題に対して、世界の主要な報道機関のほとんどは、残留が望ましいとしていた。
ユーロ参加には反対だったイギリスの経済誌「フィナンシャルタイムズ」(FT)も、
今回は社説で「残留に1票を投じるべきだ」としていた。
また、イギリス財務省、イングランド銀行、経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)等の
さまざまな機関が、こぞって離脱のコストを指摘していた。
短期的に見れば、イギリス離脱によって世界経済が混乱することは避けられない。
なぜなら、それは突然の体制変更をもたらすからだ。
以下に述べるように、イギリスとEU加盟国との関係がどうなるかは、今後決められるさまざまな取り決めに依存している。
ところが、これらがどうなるかが現時点でははっきりしない。それが不確実性を強めている。
現在の世界経済の動揺は、これによるものだ。
さらに、離脱派は、最後の段階で、移民問題に焦点を当てた主張を展開した。
これが労働者や一般市民の共感を呼び、離脱派の勢力が増したことは無視できない。
そしてこれが、「移民を受け入れたくないイギリスの身勝手な決定」という良識派からの批判を強めた。
■イギリスの離脱の根底には
■巨大官僚組織と規制への反発がある
こうした状況下で、「イギリスの離脱には、経済的な観点から見て合理的な理由がある」と指摘すれば、
「何とへそ曲がりのことを言うのか」と批判されるだろう。
しかし、それを認識することは、大変重要だ。なぜなら、「イギリスの離脱が経済的に不合理」との考えは、前提に基本的な問題があるからだ。
この問題の根底には、「巨大官僚組織による規制の強化と、それに対する反発」という問題が横たわっているのである。
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多くの論調は、ヨーロッパ統合を目指すEUの理念は絶対的に正しく、また単一市場が経済的に望ましいとしている。
だから、「イギリスの行動は自国中心主義、孤立主義であり、ヨーロッパにとっても世界経済にとっても望ましくない」という結論になる。
しかし、以下に見るように、統合がつねに正しいという考えには、再考の余地がある。
イギリス商工会議所のホームページにあるEU referendum briefingsは、離脱派と残留派の意見を、
いくつかの論点について手際よく要約して整理している。以下では、これを参考としつつ、いくつかの論点について考えることとしよう。
■むしろEUの規制から
■逃れるメリットのほうが大きい
EUは単一の市場であり、自由な経済活動が認められていると言う。しかし、実際にはさまざまな規制が押し付けられる。
2010年以来にEUが導入した新しい法規制は3500にも及び、イギリスのビジネスに影響している。
イギリス商工会議所によれば、EU規制のコストは、毎年76億ポンド(1200億ドル)に及ぶ。
さらに、巨大な官僚組織ユーロクラットに対する人々の不満と反発も大きい。高い給与を得、しかも税金がかからない。
そして、規制を押し付けてくる、というわけだ。
貿易に関して、残留派は、EUに残れば、5億人の単一マーケットへのアクセスを維持できるという利益を強調する。
それに対して、離脱派は、EUの外にいてもEUメンバー国と貿易できるし、無関税の取り決めをすればよいとする。
その半面で、離脱すれば、EUの法規制やEU裁判所にわずらわされず、EU以外の国との自由貿易協定がやりやすくなるという。
現在はEU加盟国との間で国境検査もなく、パスポートもいらない。離脱すれば、これらが必要になる。
しかし、離脱派は、そうなっても通常の貿易を阻害することにはならないとする。
そして、非合法の移民や難民、あるいは密輸をコントロールできるメリットを強調する。
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