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★マイナンバーで摘発 「社会保険料未納」75万社倒産の“流れ弾”
PRESIDENT Online 社会保険労務士 北見昌朗=文
■零細企業は“社会保険料倒産”になりかねない
「全国で約75万カ所の事業所が厚生年金の保険料負担を不正に逃れ、
従業員約200万人が年金に加入できずにいる」(共同・2015年12月28日付)
昨年末、新聞報道された「厚生年金負担逃れ75万社」問題。
こうした事業所の摘発がマイナンバーのおかげで進むと想像される。そこで、その影響を試算してみた。
▼政府からみれば宝の山
仮に、正社員やまとまった時間働くパート従業員などの平均年収が300万円だとする。
試算しやすいように社会保険料の割合を約30%とする(実際は 労使折半で、労働者は14.689%分
《介護保険加入の被保険者の場合》を負担)。すると、労使合計で年間90万円になる。
その「年間保険料90万円×200万人=1兆8000億円」ということで、現状、国は1兆8000億円も
取りはぐれていることになる。財政事情が厳しい中、もし政府がそれらを回収できれば大助かりに違いない。
▼未納企業は「とうちゃん、かあちゃん経営」の零細企業
では、どんな事業所が不正をして、社会保険料を納めていないのか?
単純計算すると「未納者200万人÷事業所75万カ所=約2.6666……人」ということで、
従業員が2~3人程度の零細企業のイメージが浮かぶ。社会保険は、法人の場合は従業員がいなくても
強制加入になっている。個人経営の場合は「従業員5人以上」だと強制加入になる。
つまり、社会保険の未納事業所は「とうちゃん、かあちゃん経営」レベルの零細企業が大半を占めると想像される。
例えば、商店街の小さなお店を想像してほしい。八百屋や魚屋、駄菓子屋といった地元密着型のお店や事業所だ。
「従業員の厚生年金」の問題というよりも「店主夫婦の厚生年金」の問題だと言った方がふさわしいかもしれない。
「店主夫婦」にしてみれば「これまで未納だったので、今さら掛けたくない」という本音もあるだろう。
■「とうちゃん、かあちゃん経営」が500万円払えるか?
▼零細企業は法定福利費が135万円アップ
その「従業員3人」の零細企業がもし、社会保険に加入したら、いくらぐらい経費が増えるのだろうか?
会社負担分の社会保険料は、年収の約15%である。1人あたり「平均年収300万円×保険料率0.3×事業主負担分0.5」
=45万円で、この3人分だから135万円。事業所としては、毎年135万円の法定福利費が新規に発生することになる。
さらに、社会保険に加入すると従業員の給与の手取りが減るため、事業主はその保障分を一部
“補てん”することもある。そうなると、さらなるコストアップにつながる。
▼会計検査院は「過去2年分」徴収できる
マイナンバーの導入後、会計検査院など当該官庁はそのデータを元に未加入企業の摘発に乗り出すと思われる。
ルール上は、過去2年分の支払いを命じることができる(それ以前は時効扱い)。
ここで問題となってきそうなのは、従業員負担分の扱いだ。それは本来従業員が負担するべきものだが、
今さら払えとは言いにくいもので、事業所側が全額を負担するケースが多い。そうなると過去2年分の
保険料の総額はこうなる。「平均年収300万円×保険料率0.3×従業員3人×2年分=540万円」。
500万円以上……。零細企業の社長が真っ青になっている顔が想像されるだろう。
この金額は、零細企業にとっては死活問題だ。もし、会計検査院などが本腰を入れたら零細企業は
“壊滅的”な打撃を受け、おそらく自主廃業ができるのは良い方で、自己破産に追い込まれる
ところが少なくないのではないか。
全国に75万カ所もある零細企業の中で、どれだけが破綻に追い込まれるのか予想もできないが、
大きな影響が出ることは確実だ。零細企業が破産すれば、連鎖倒産を誘発するリスクが出てくるし、
雇用不安や求人率の低下も起きかねない。
「社会保険に加入するのは、もともと法で定められた義務であり、守っていない方がおかしい」
確かにそうした意見は、正論である。しかしながら、世に与える影響があまりにも大きすぎるのだ。
政府がマイナンバーを武器に「社会保険料の未納問題」の解決を急ぐと、結果として街から零細企業が減り、
例えば食品スーパーなどが姿を消してしまうのではないか? それによってすでに一部で問題化している
“買い物難民”が増えるのではないか。そんな危惧を私は抱いている。
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