16/01/20 10:26:14.85
★普天間住民 土地代を受け取りながら、堂々と耕作 〈沖縄県民も知らない「普天間基地」（1）〉
1月24日、「世界一危険」な普天間基地を抱える沖縄県宜野湾市で市長選が行われる。
争点は辺野古への移設問題だ。だが、危険というだけでは問題の本質は見えてこない。
基地と住民の複雑な歴史を沖縄在住のジャーナリスト・惠隆之介氏がレポートする。
＊＊＊
緑が広がる公園で散歩する老人やジョギング中の若者。見渡せば白砂の人工ビーチや
国際会議を開ける巨大なホールにリゾートホテル、そして、ヨットハーバーも整備されている。
生活環境も悪くはない。この街で暮らせば、エアコンの設置費用も場所によって全額補助される。
人気の高さは地元の不動産広告を見れば一目瞭然だ。60平方メートルの中古マンションで
2000万～4000万円が当たり前。ここは、「世界一危険な空港」と言われる普天間基地を
取り囲む沖縄県宜野湾市である。
宜野湾市は急拡大している街だ。県内有数（9万7470人）の人口を擁し、終戦前の7・1倍に
膨らんでいる。那覇のベッドタウンということもあるが、「特定防衛施設周辺整備調整交付金」
など様々な名目で潤沢な補助金が毎年投入されている。人口急増の原因は、「基地」の代償に
受け取ったインフラのお蔭でもある。
米兵による少女暴行事件に端を発し、日米両国政府が合意してから20年。
だが、米軍普天間基地の移設をめぐり、今日も沖縄では激しい反対運動が展開されている。
国と翁長雄志知事の対立は訴訟合戦に発展し、出口さえ見えてこない。
一方、普天間基地周辺の住民たちはこれをどう受け止めているのだろうか。
毎日のように離発着しているオスプレイを指し、早く出て行って欲しいという声も多い。
ところが、移転先の辺野古の反対運動家の中には、普天間基地内に土地を持ち、
反対運動に資金を提供している者もいる。基地移設を叫ぶ一方で、それを邪魔するという矛盾。
これをひもとくためには「普天間」という基地の誕生に遡る必要がある。
■最悪の経済環境
掲載の航空写真をご覧頂きたい。上は1944年に米軍が撮影した宜野湾村（当時）
とその周辺。そして、下は2002年に撮影された同じ場所の全景である。
米軍の写真は沖縄戦の前に撮ったものだから、基地が出来る前の様子がよく分かる。
山林と農地が広がるばかりで、民家は数えるぐらいしかない。
記録によると、戦前の普天間は、松並木と岩苔が繁茂し、真昼間でも通行量は極めて少なかった。
集落には本島中部域を統括する中頭（なかがみ）郡役場や農事試験場が置かれ、
地域行政の中核を成していたが、実のところ経済環境は最悪だった。
〈沖縄県の農民は、全国平均生活程度の約三分の一にて生活するも労銀は、
全国平均額の四分の一に達しない、即ち、全国平均は、男二円十三銭、
女一円十四銭であるが、沖縄では、男五十一銭、女二十四銭六厘に過ぎない〉
1925年、沖縄を調査した大阪毎日新聞経済部長の松岡正男は『赤裸々に視た琉球の現状』
でこう書いている。
県民は主食をサツマイモに頼り、沖縄でも生育できるサトウキビを唯一の商品作物としていた。
1929年時点で、県民の預金合計は640万円、これに対し、借入金合計は1650万円。
農家は常に“債務超過”で、借金の利息を払うのがやっとだったのである。
太平洋戦争直前、農地の7割には金融業者によって抵当権が設定されていたという。
その結果、農業に見切りをつけ、海外に移民した者も少なくない。
皮肉なことに、その苦境を一掃したのが、「沖縄戦」だった。
■「一方的に建設」？
1945年4月、沖縄本島中部西海岸に上陸した米軍は、宜野湾村普天間集落付近に
大規模侵攻を開始。日本軍は牛島満司令官率いる第32軍が応戦するが、物量の格差には
かなうべくもなかった。同年6月、軍民合わせて約18万人が死亡した沖縄占領作戦が終了する。
そして、基地の歴史はここから始まる。
沖縄を占領した米陸軍は、宜野湾村高台に2400メートルの滑走路を造成する。
「太平洋戦争初期、日本海軍が航空基地を造成するために普天間一帯で用地を買収していた」
という古老達の証言もある。高台の土地は飛行場としてはうってつけの場所でもあった。
>>2へ続く
週刊新潮2016年1月21日号 掲載
URLﾘﾝｸ(www.dailyshincho.jp)