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★「軽減税率は低所得者を救う」は大きな誤解だ
経済学者が導入に賛成しない理由
幻冬舎plus 2015年11月05日
最近、よく聞く「軽減税率」という単語。消費税を10%へ増税しつつ、特定の品目においては
税率を低く定めようという施策だ。一見、消費者にやさしい制度のように思われているが、
果たしてそんな単純な話なのだろうか? エコノミストで明治大学准教授の飯田泰之さんに
「軽減税率」のホントのところを聞いてみた。
■専門家の誰もが反対する「軽減税率」
「経済学者の意見が一致している問題ほど、世論の支持は得られない」という経験則がある。
その典型的な事例が現在話題になっている軽減税率問題だ。私は、軽減税率(消費税率を
品目毎に変える施策)の導入に賛成だという経済学者に会ったことがない。政治力学上
やむをえない妥協だという人はいるが、少なくとも積極的に賛成している専門家はいない。
その一方で、日本経済新聞社とテレビ東京による世論調査では74%が軽減税率を必要だと回答している。
そもそも軽減税率の何が問題なのか、 財政学、政治学、再分配の3つの観点から
軽減税率の問題点を整理するとともに、公共財としての経済政策について考えよう。
軽減税率に多くの経済学者、なかでも財政学の専門家が反対する第一の理由は、
公平・簡素・中立という税制の大原則からあまりにもかけ離れているから―というものになる。
租税の三原則の公平の原則(における水平的公平の原則)とは、同じ経済力なら同じ額の税金を
負担するように税を設計する必要があるというものだ。支出内容によって税負担額が変わる
複数税率では、公平原則が損なわれる。
簡素の原則とは、税制は可能な限りシンプルなものにすべきという原則だ。
現在の日本の税制が簡素の原則に適合しているとは思わないが、
これ以上その複雑さを増大させるのが愚かなことには違いないだろう。
第三の中立の原則。これは、税の存在によって人々の行動を変えてしまうような事態は、
最小限に抑えなければならないという原則である。公平原則を満たさない税制では、
行動を変えると得になるため、この中立性の原則も満たされにくくなる。
軽減税率の存在は販売側・購入側の行動を大きく変化させるだろう。
租税原則を満たさない税制が生んだ不都合の典型が、17~18世紀のイギリスに存在した「窓税」だ。
比較的豪華な家に多い「窓」に課税することで、税収の確保を試みたが、その結果は悲惨なものだった。
イギリス中で税を逃れようと、窓のない不自然な建物が作られ、既存の窓も埋められた。
日当たりや風通しの悪化から深刻な健康被害が生じたという。現在の欧州の複数税率についても
同様の問題が生じている。書籍類への軽減税率はおまけ付き商品―服やバッグに申し訳程度の
小冊子がつく「雑誌」を生んでいる。
一般の食料品に軽減税率を適用し、外食に高税率を適用している国は多いが、
その結果、フードコート方式(形式上はテイクアウトだが、実際は店のすぐ横で食べられる)での
商品提供が増えている。単一税率であれば必要のなかった小冊子やフードコートは、
社会的には単なる浪費である。
■低所得者対策なら、給付金やクーポン支給のほうがよい
政治的にも軽減税率には問題が多い。軽減税率の適用を受ける品目は、ほかの商品に比べ取引上
有利になる(消費者にとってそのほかの商品よりも安くなるのだから当然だ)。すると、どの業界も
「自分の商品に軽減税率の適用を」と主張することになる。つまりは軽減税率に向けた陳情合戦が
はじまるのだ。政治家にとっては、これはありがたいことかもしれない。業界団体に軽減税率の適用を
チラつかせることで、支持をつなぎ止める手段になる。しかし、1時間働くよりも1時間政治活動をした方が
儲かる社会に経済発展はない。軽減税率の存在は、各業界の資源(カネと時間)をビジネス上の努力から
政治活動にシフトさせる危険性がある。実際にこの動きはすでに一部業界で始まっている。 >>2へ続く
(文:飯田 泰之/エコノミスト・明治大学准教授)
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