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★英国“中国製原子炉導入”の衝撃と背後にあるTPPへの焦り
真壁昭夫 [信州大学教授]
■英国が中国製原子炉の導入で合意
■TPPから外れた両国の思惑が合致
10月21日、中国の習近平国家主席は英国のキャメロン首相と会談し、同国南東部で計画している
原子力発電所に、中国製の原子炉を導入することで合意した。中国製の原子炉の導入は先進国では
初めてであり、多くの専門家から驚きを持って受け止められた。
当該原発プロジェクト企業には、中国広核集団(CGN)が66.5%を出資することになっており、
原子炉の建設及びその後の運営までのほとんどを中国企業が担うことになる。
それに対しては英国内から、「安全性に疑問がある」「国の根幹を担う事業分野を中国企業に
任せてよいのか」などの批判的な声が上がっている。
今回の合意の背景には、海外からの投資資金を使って国内経済の活性化を図りたい英国の
キャメロン政権の思惑と、世界のインフラ投資を狙う中国の戦略が上手くマッチしたことがある。
中国は国内に大きな過剰生産能力を抱えていることもあり、鉄鋼やセメントなどの
基礎資材を海外に輸出して、国内経済を下支えすることが必要になっている。
そのためには、世界のインフラ投資を着実に掴んでおきたいはずだ。
一方、TPPの基本合意によって、環太平洋の12ヵ国が関税率の引き下げやビジネスルールの
統一に動き始めた。TPPから取り残された中国としては、同様にTPPから外れている
欧州諸国に近づいて、対TPPで相応のポジションを確保することが必要になる。
その意味では、中国の意図は明確だ。見逃せないポイントは、英国やドイツなど欧州の主要国が、
それを歓迎するスタンスを取っていることだ。
今後、中国をめぐる情勢は一段と複雑化するだろう。わが国としても、世界情勢の変化に
敏感に対応できる体制を作っておくことが必要だ。
■4兆元の景気対策が残した過剰供給能力と
■“TPP vs.一帯一路”の対立構造
リーマンショック後、世界経済は崖から突き落とされるように落ち込んだ。
それまでの中国経済は輸出を主なエンジンとして高成長していたこともあり、
同国にとって世界経済の落ち込みは重大な痛手になった。
それに対して当時の胡錦濤政権は、4兆元の大規模な経済対策を実行して景気を下支えした。
その景気対策によって、中国経済はリーマンショックの痛手を持ちこたえた。
しかし、大規模な景気対策の副作用として生産設備が急速に拡大したこともあり、
現在では国内に過剰供給能力が残ってしまった。特に鉄鋼やセメントなどの基礎資材
分野でその傾向が顕著になっている。
中国政府は、余った基礎資材を海外のインフラ投資に売り込むことを考えた。
それが、“一帯一路=新シルクロード経済圏構想”だ。そしてお金のない新興国には、
資金を貸し付けるためにAIIB=アジアインフラ投資銀行を設立した。
一方、日米を中心に環太平洋12ヵ国は、自由貿易などを標榜するTPPの基本合意にこぎつけている。
TPPは、日米を中心とする中国包囲網のような格好になっている。
TPPの基本合意について、中国の経済専門家の友人に
「中国政府はTPPの基本合意をどう見ているのか」と尋ねてみた。
彼は間髪を入れず、「政府は、TPPでのけ者になってしまうと焦っているはずだ」と答えてくれた。
その焦りが、最近の欧州諸国に対する積極外交の展開に繋がっている。欧州諸国と蜜月を演出することで、
中国自身がTPPの包囲網とは異なる方向に向かっていることをアピールしたいのだろう。
■経済的メリットを狙い
■中国との連携を深める欧州諸国
習主席の英国訪問に際して、英国が示した厚遇は、中国と欧州諸国との関係強化を見せつけ
るにはとても好都合だった。
今回、習主席は、多額の商取引契約という手土産を英国にもたらす準備を怠らなかった。
また、かつて英国が、中国政府と対立関係にあるチベットの指導者=ダライ・ラマと接触
したことで、一時、中国との関係が悪化した経験から、英国政府が中国に対する姿勢を
和らげたことを上手く使った。
>>2へ続く
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