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★G2レポート・安田浩一 「ヘイトな馬鹿に鉄槌を」【前編】
大阪・日本城タクシー社長を突き動かした2つの「差別」風景
2015年05月18日(月) 安田浩一
■正義の悪徳社長
事務所のドアを開けたら、ちょうど業界紙の取材中だった。
「おお、そうだった。約束重なっていたな。すまん、すまん」
軽く頭こそ下げているが、特段にすまなそうな感じはなく、笑顔で私を部屋の中に招きいれた。
「で・・・・・・誰やったっけ?」
そう言いながら人懐っこそうな表情で私の顔を覗き込む。それが、この人の持ち味なのだろう。悪い感じはしない。
坂本篤紀(49歳)―。大阪市住之江区に本社を持つ「日本城タクシー」社長である。
あらためて来意を告げると、「ワシ、悪徳社長やからなあ。金儲けの話なら、いくらでもしまっせ」と大げさに胸を張ってみせた。
この「悪徳社長」、実は地元大阪で少しばかり話題になっていた。
今年1月末から、自社で所有するタクシーすべての後部窓に、「ヘイトスピーチ、許さない。」と書かれたステッカーを
貼りつけたのだ。いま、大阪市内ではヘイトスピーチに堂々と異を唱える54台のタクシーが街中を流している。
怒号まみれの“差別デモ”だけではなく、うっすらとした排外的な気分が世の中に広がるなか、客商売の民間企業が
あえてこうした「反ヘイト」を訴えることには、それなりのリスクと覚悟が必要であろうことは想像に難くない。
だから興味を持って訪ねてみたのだが、間近で見る坂本は当初予想していたような社会運動家的な空気をまとった
人ではなく、算盤をパチパチ弾く音が聞こえてきそうな「浪速の商人」然として私の前に現れた。
雑談を終えると坂本は私を駐車場に連れ出し、停めてあったタクシーの後部窓をポンポンと叩いた。
「目立ちますやろ?」
確かに。
「こんなん貼ってるの、ウチのタクシーだけやから、すぐに『日本城や!』ってわかってもらえますがな」
黄色を背景としたデザインは遠くからでもよくわかる。でも、このデザイン、どこかで目にした記憶があるのだが・・・・・・。
「法務省の啓発ポスターとそっくりやろ?というか、そのまま使わせてもらった(笑)。
もちろん無断使用やない。ステッカー作り終えてから法務省に電話したら、かまへん言うてた。お上のお墨付きや」
今年初め、法務省はヘイトスピーチ防止を目的とした啓発ポスターを製作。1万6000枚を各省庁や出先機関、
自治体などに配布したほか、主要ターミナルの液晶広告板にも映し出されるようにしている。
で、この「お墨付き」ステッカーをなぜタクシーに貼ろうと・・・・・・
私の質問が終わらぬうちに、坂本は「商売のためや」と笑いながら答えた。
「大阪はぎょうさんタクシーが走っている。そんななかでヘイトスピーチに反対しているタクシー見つけたら、
『ようやってるなあ』と評価してくれるお客さんもいるはずや。わざわざ選んで乗ってくれるお客さんもいるかもしれん。
そしたらウチも儲かるがな。な?悪徳社長やろ?」
どこまで本気なのか、たんなる韜晦なのかはよくわからない。
だが、小難しい理屈をこねて「反ヘイト」を語らないところに、かえって好感を持った。
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■日本城タクシーに貼られたステッカー
そうなのだ、ヘイトスピーチに反対するということに、政治的信念やイデオロギーなど必要ない。
そもそも差別する側は、きわめてカジュアルに他者を貶める。ときに差別じたいを娯楽の道具にする。
であるならば、それは許されないことなのだと、社会の“常識”として、普通に返せばいいだけだ。
たとえ「商売のため」であっても何が悪かろう。
だが─当然ながら、その「商売」にケチをつける者も現れる。
「なにがヘイトを許さない、や。いい気になるな」
「在日特権をどう思っているんだ。朝鮮人を批判しろ」
坂本の会社にはそんな嫌がらせ電話が後を絶たない。
「なるほど、これがヘイトっちゅうもんやなあと、むしろ、世の中の気分みたいなもんがようわかりましたよ。
だからますますやる気になりましたわ。ナチスみたいな連中をのさばらせてはいかんと」 >>2へ続く
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