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日本の占領期にあった性暴力を問い直す研究書が昨年相次いで出版された。
占領軍向けに性売買が行われた「慰安所」の実像に迫った一橋大特任講師・平井和子さんの
「日本占領とジェンダー」（有志舎）と、「パンパン」と呼ばれた女性への暴力を
テーマにした京都大研究員・茶園敏美さんの「パンパンとは誰なのか」（インパクト出版会）。
２人の報告会が京都市左京区の京都大で開かれた。戦後７０年を経て、占領史で等閑視されて
きたこれらの研究は「成功例」と評されがちな日本占領を捉え直す契機となり、
論争が続く従軍慰安婦問題に視座を与える。
■行政や警察が主導
平井さんによると、終戦３日後の１９４５年８月１８日、旧内務省は進駐する外国兵の
性暴力から日本人女性を守る目的で性的慰安施設を設置するよう、知事と警察に秘密通牒
（つうちょう）を出す。占領軍第１陣が上陸した同２８日、第１号慰安所がオープンする。
県と警察が慰安所設置目的の協会を接客業者につくらせる、県や警察が自ら開くといった
形で慰安所は各地に設置されたという。
慰安所の女性としてまず標的にされたのが公娼（こうしょう）だった。公娼の多くは
幼いころ親に売られ、前借金に縛られて廃業の自由なく売春などを強いられてきた女性だった。
神奈川県警察史に「よごれた体で国の役に立つなら」と発言があったと記録が残り、
警察は「女の特攻」と呼んで鼓舞した。協会は「衣食住高給支給」などと新聞広告で募集、
戦争で生活基盤を失った女性も応募したという。
広島県の警察署から県警への報告書に「進駐軍部隊ノ人気ヲ呼ビ全ク昼夜兼行盛況ヲ
呈シツツアリ」と記述がある。一方、静岡県の慰安所は１人が３時間で２０～２５人の
兵士の相手をしたと証言が残るという。平井さんは「警察資料は米軍が押し掛ける様を
判を押すように『盛況を呈する』とある。日米合作で過酷な労働を強いられた女性
の視点で資料を読み直すべき」と話す。
■軍事組織の問題性
平井さんは「日本占領－」で、国を問わず、女性の性を戦争遂行の手段に利用し、
搾取するという軍事組織に内在する問題をジェンダーの視点から再検討した。
「兵士には性的慰安が必要」という“男性神話”を元に“性の防波堤論”が生じ、
「守るべき女性」と「犠牲にしてもよい女性」に分断される。こうした背景が旧日本軍
慰安所から占領期の慰安所に連続し、後の米軍基地売買春を支えたと考える。
そして、占領軍兵士の“慰安”名目で性売買に就いた女性を通して日本占領を見直せば、
「平和的進駐」といったイメージとは異なる風景が浮かぶ。
報告会では、「これまで売春が支える軍事組織の問題性を問う姿勢が欠落していた。
“男性神話”と女性の二分化を克服することが脱軍事化への道となる」と訴えた。
■届かぬ被害者の声
茶園さんは「パンパン」の女性と彼女たちに対する人権侵害を研究してきた。
茶園さんによると、慰安所は米兵の性病蔓（まん）延などを理由に４５年末～４６年
頃に閉鎖された。慰安所にいた女性は街娼（がいしょう）にならざるを得ない人がいた。
米兵相手の街娼は恋愛関係の人も含め「パンパン」と呼ばれ、性病検診を受けさせる
ためＭＰ（米軍憲兵）と日本警察の強制的なキャッチ（当時の検挙）の対象になった。
ＭＰと日本警察は米兵と接触していそうな女性を探し出しては衆人環視の下、
トラックの荷台に乗せて警察署に連れて行って強制的に性病検診を受診させたという。
茶園さんは同著で、経済的困窮、米兵によるレイプ、キャッチされたトラウマ、
米兵への憧れなどさまざまな背景を元に「パンパン」になった女性の生を掘り起こした。
報告会で「今も侮蔑（ぶべつ）的な眼差（まなざ）しが残り、『パンパン』は語っては
いけない雰囲気がある。性暴力に遭ったと言えない状況がなくならない限り被害者の
訴えは届かない」と述べた。
会場からは従軍慰安婦や現代の性風俗の問題も絡めつつ、占領期慰安所と「パンパン」
の女性は自由意思か強制かをどう考えるべきかと質問が出た。茶園さんは「自由意思で
飛び込んだとしても、嫌と思った時に囲まれて逃げられない状態だとすれば性暴力になる」、
平井さんは「迷いながら学生と慰安婦問題を議論している。入る時の状況を見て判断する
のは何かの土俵に乗っている気がする。慰安所などをつくり出した側の意思こそ問うべき
ではないか」と話した。
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