15/03/17 16:02:10.59
★【日本に魅せられた 西洋の知性】ドナルド・キーン 日本文学を世界に紹介し、震災後に帰化
2015.03.17
ある外国を理解しようとしたときに、人はその国の芸術に親しもうとする。
美術や映画というものもあるが、特に文学は重要である。日本がドナルド・キーンという
日本文学の紹介者を得たことは、日本の幸運である。
川端康成や大江健三郎のノーベル文学賞受賞が可能となったのも、キーンのような
優れた研究者が縁の下の力持ちになってくれたからであろう。キーンは三島由紀夫や
安部公房との親密な交流でも知られる。三島追悼の「憂国忌」における講演でキーンは
次のように語って聴衆を驚かせた。
「三島さんの文学的業績の中で、国際的にも超一流なのはその批評です。
次が戯曲で、それに次ぐのが小説です。小説は三島さんの仕事では３番目です。
これを言うと、三島さんは嫌がっていましたが…」
三島の渋い顔が目に浮かぶようだ。なるほど、キーン自身が一流の批評眼を持った文学者なのである。
１９６８年、川端がノーベル文学賞を受賞した。ところがキーンは、三島が受賞すると
思い込んでいたので、大きなショックを受けたという。下馬評で三島受賞の声は高かった。
７０年になりキーンは、川端受賞の内幕を知り驚愕することになる。
ノーベル賞委員会に意見を求められた欧州人の有力者が「三島は左翼過激派に近いと
思われたので、保守派の川端を推薦し、委員を承服させた」と語るのを、本人の口から直接、
聞いたのだ。キーンは自伝で回想している。
「三島が左翼の過激派と思われたせいで賞を逸したなんて、あまりにも馬鹿げている。
私は、そのことを三島に話さずにいられなかった。三島は、笑わなかった」
２２年、ニューヨークに生まれたキーン少年は余程の秀才だったのだろう、
１６歳でコロンビア大学に入学、４０年のある日、古本屋で偶然に『源氏物語』の
翻訳本を買ったことが、日本文学との出合いだった。これで、彼の人生の方向性が
決定してしまったのだ。
コロンビア大学卒業後、第２次世界大戦中は米海軍の語学学校で日本語を修得し、
戦争中は押収した日本軍の文書などの翻訳に従事した。特に、戦死した日本人兵士の
手帳を読み進めるうちに、兵士の真情に同情するようになる。兵士の偽らざる言葉に
どんな文学よりも感動したという。
後にキーンは日記が日本文学の１つのジャンルであることを知り、
『百代の過客：日記にみる日本人』なる名著を著すことになる。
２０１１年３月の東日本大震災後、被災者の懸命に生きる姿、日本人の秩序だった行動に、
日本帰化を決意。１２年、日本国籍を取得し、日本人を感動させた。キーンは言う。
「地震や津波、原発事故の後にも、略奪をはじめとする反社会的な行為がほとんど
なかったことは、日本の民度を世界に示したと言えるでしょう」
雅号、鬼怒鳴門。文化勲章受章者。 （敬称略）
■藤井厳喜（ふじい・げんき） 国際政治学者。１９５２年、東京都生まれ。
早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博士課程を修了。
ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。
テレビやラジオで活躍する一方、銀行や証券会社の顧問、明治大学などで教鞭をとる。
現在、拓殖大学客員教授。近著に『アングラマネー』（幻冬舎新書）、
『世界経済の支配構造が崩壊する』（ビジネス社）
URLﾘﾝｸ(www.zakzak.co.jp)