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★苛立ちを絡めとる「クモの巣」―なぜ、ヘイトスピーチはなくならないのか?
2015年03月08日(日) 魚住 昭
面白い論文を読んだ。徳島大准教授・樋口直人さんの『日本型排外主義』(名古屋大学出版会刊)だ。
樋口さんはNHK「クローズアップ現代」のヘイトスピーチ特集に登場した社会学者である。
私が彼の著作をひもといた理由はただ一つ。今の日本を覆う薄気味悪い空気の正体を
突き止める手掛かりを得たかったからだ。
論文の核になっているのは彼が2年がかりで行った聞き取り調査である。
対象者は「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を中心にしたヘイト・デモの活動家34人。
彼らが運動に加わった経緯について直接インタビューし、その結果を分析している。
ヘイト・デモのように恐ろしい現象はなぜ起きるか。彼らはどうして「在日特権」という
明白な嘘を信じ込むのか。樋口さんは自ら集めたデータをもとに精緻な論を展開し、その謎に迫っていく。
見逃せないのは冒頭の一文だ。彼は世に流布する〈紋切り型の言葉に頼る解釈〉に疑問を投げかける。
非正規雇用の増大など〈高度経済成長期の安定的な社会構造を喪失〉し〈寄る辺なき不安を抱え
た若者たちは、それを他者に対する憎悪へと変換させ、外国人排斥を訴えて街を練り歩く〉
との通説に異議を唱える。〈本当にそうした説明でよいのか〉と。
たしかに現実に起きていることは通説では説明できない。若者の不安が原因なら、
ヘイト・デモの主体は若者でなければならぬ。
だが、私が見たヘイト・デモの参加者の大半は中年男性だった。
それと同一視するわけにいかないが、嫌韓・嫌中のヘイト本を買い漁る人も50代以上が目立つ。
では、年代の問題とは別に、経済的不遇が在日コリアンへの憎悪に転じるという見方は正しいだろうか。
樋口さんは聞き取り調査した活動家の学歴・職業・雇用形態の内訳を明らかにしている。
それによると、34人のうち高卒7人、専門学校3人、大学24人(中退、在学を含む)で、
全体として学歴は決して低くない。職業もブルーカラー6人、自営4人、大学生2人を除く22人は
ホワイトカラーである。雇用形態も非正規雇用は2人だけで、34人中30人が正規雇用だった。
こうしたことからヘイトスピーチは〈階層の低い者が主たる担い手となった運動とはいえず、
不遇状況を運動参加者の共通項とみるのは間違いだろう〉と彼は言う。
とすれば、彼らが憎悪に凝り固まる理由は何か。在日コリアンとの接触でネガティブな意識を
抱いたと答えた者は1人しかいない。圧倒的多数が在日コリアンに関心を持っていなかったらしい。
それが急転換するきっかけはさまざまだ。共通項を探すと、中国・韓国・北朝鮮との関係に
苛立ったから(19人)という答えが最も多い。具体的には拉致問題、尖閣問題、中国の反日デモ、
日韓ワールドカップ、慰安婦問題などだ。
その他は、右翼への憧れなどをきっかけに挙げている。つまり彼らの大多数は在日コリアンとは
無関係の問題から入って、後で「あっ」と言って「在日特権」を発見する過程をたどっている。
ここで決定的な役割を果たすのがネットである。上海の反日デモをきっかけに関連事項のネット
検索を始めた在特会の40代男性Kは言う。
〈あれだけの大規模なデモが始まったんで、当時の日本はどれだけひどいことをしたんだろうと思って、
調べ始めたんですよ。ところがほとんどそういう事実はなかったというのがわかって、今に行き着いた、たどりついたんですね〉
'02年ワールドカップで韓国チームに反感を持ったのをきっかけに検索を重ねていった在特会の30代男性Fはこう語る。
〈調べて、情報が入ってきたっていう(中略)こちらから積極的に調べたっていうのがあって。
それでおかしいということがずっとわかって、納得するような答えが出てきて、それでああ在日特権なんだ、というところにいきました〉
>>2へ続く
『週刊現代』2015年3月7日号より
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