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★いったい誰が「イスラム国」に身代金を払っているのか
2015.2.10 09:00
「鬼畜の所業」という月並みな表現が、これほどふさわしい蛮行が他にあろうか。
「イスラム国」に拘束されていた湯川遥菜さん、後藤健二さんとヨルダン軍パイロットを殺害した
とする画像がインターネットで公開された。犯人は必ず法と正義の裁きを受けなければならない。
2億ドル(約238億円)という途方もない額の身代金要求に応じるわけにはいかなかった。
亡くなった方にはまことにお気の毒だが、犠牲を忍ぶのは日本政府にとっても苦渋の決断だったろう。
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それにしても不可解なのは、テロを許さない、という合意があるにもかかわらず、
同じイスラム国に人質を取られた一部の国が、身代金を支払っていると伝えられていることだ。
有志連合による空爆の影響で弱体化しているとはいえ、彼らはなお活発に活動している。
資金は、原油の密輸、住民から徴収する「税」、そして身代金といわれる。
国連安全保障理事会の昨年11月の報告書によると、イスラム国はこれまで、
3500万~4500万ドルの身代金を手中にした。
いったい誰が払っているのだろう。
米国内の報道によると、これまで各国から20人以上が人質となっている。
米国、英国はいずれも身代金支払いを拒否、ジャーナリストらが犠牲になった。
これに対して、欧州の一部の国々は支払いに応じたのではないかという報道が内外のメディアでなされている。
たしかに何人かの人質が解放されてはいるが、身代金と引き換えという証拠はない。
一昨年、アイルランドで開かれた主要国首脳会議(ロックアーン・サミット)の宣言は、
アルカーイダ関連及び他の世界的規模のイスラム過激派グループが過去3年間で集めた身代金を数千万ドルと
見積もり、今日あることを予想してか、「国連決議に基づき、テロリストに対する身代金の支払いを
全面的に拒否する」と明確に謳(うた)った。
もし、サミット参加国が身代金を払っているならば、宣言への重大な違反だ。
どのような形で支払われるのか。ことがことだけに、つまびらかではないが、人質解放のために契約した
コンサルタントへの手数料が流用されたり、別の名目でさまざまな団体を経由しているなどといわれる。
◇
日本では、過去はともかく、現在はテロリストに身代金を支払うことは許されないという自戒が強い。
そういう意識を植え付けたのは、1977年秋のダッカ事件だ。日本赤軍グループに乗っ取られた
日航機がバングラデシュのダッカに着陸、600万ドル(当時のレートで約16億円)の身代金と、
日本で勾留中の仲間の釈放を要求、拒否するなら乗客を殺害すると脅迫した。
日本政府は厳しい判断を迫られ、「人の命は地球より重い」という当時の福田赳夫首相の決断でこれを受け入れた。
同様の事件が起きたとき、必ずしも各国は身代金支払いを拒否していたわけではなかったともいわれるが、
日本の場合、収監中のテロリストを釈放したこともあって、「テロも輸出するのか」と海外から批判された。
日本にとっては、それが長い間のトラウマになってきた。
今回、身代金支払いを拒否したのは、テロに屈しないとの決意に加え、そういう背景もあったのではないか。
だからこそ、今でも一部の国が身代金を支払っているのではないかと聞くにつけ、良心の呵責(かしゃく)に
さいなまれ続けてきた日本が、割り切れなさを感じるのは、ごく自然なことだろう。
断っておくが、日本も身代金を払うべきだったと言っているのではない。むしろ、各国が毅然(きぜん)
として立ち向かい、テロリストを利すことのないように足並みをそろえることを強く求めるべきだ。
より強制力を強めて身代金支払いを禁じる世界的な枠組みを改めて考えるなどというのも一法だ。
しかし、「テロに屈しない」という強い決意を各国が持ちさえすれば、そんなものは一切必要ない。
問題は、苦渋を伴う重大な決断ができるかどうかだ。(フジサンケイビジネスアイ 産経新聞論説委員長・樫山幸夫)
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