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★【日曜に書く】「国の宝」守り抜く覚悟を 論説委員・山上直子
2015.2.8 09:07
国宝や重要文化財に指定されている美術工芸品が多く所在不明になっている問題で、文化庁が先月下旬、
２度目の調査結果を報告した。行方が分からない国宝・重文は、２９都府県で１８０件（うち国宝３件）
にものぼるという。調査中のものもあり、件数はさらに増えそうだ。
２月１日現在で、国宝・重文の美術工芸品は１万５７３件。いずれも「国の宝」と呼ぶべき国民の文化的財産だ。
それが突然に「消える」とは、何が起きているのだろう。
・「不明１８０件」の衝撃
美術工芸品といっても、東大寺南大門の仁王像のような大きな仏像から、持ち運び可能な絵画や工芸品、
古文書まで多彩だ。教科書でおなじみ、純金製の「漢委奴国王印」のように、一辺わずか２センチあまりの小さなものもある。
所有者もさまざまだ。社寺のほか財団法人や学校法人、自治体や個人のコレクターが持っている場合も多い。
１８０件の内訳を聞いてみた。個人所有の１３１件（盗難３）が圧倒的で、社寺所有が３９件（同２５）、
残りは財団や企業、地方自治体の所有だった。個人の場合、所有者の転居や死去を機に行方が分からなくなる
ケースが多いのに対し、社寺所有の場合は６割以上が「盗難」。とすると、課題となる点は明らかだ。
まず必要なのは、個人コレクターの手元にある文化財のチェックをこまめに行うことである。
転居や死去、相続などプライバシーにもふれる問題だが、この壁をクリアしない限り、文化財は守れない。
文化財保護法では、持ち主が代わると文化庁への届け出を義務づけている。
ところが「制度をよく知らず、相続などの際に手続きをしないまま所在不明になってしまう」（文化庁）というのだ。
遺族が意図的に、あるいは価値に気づかないまま売却・譲渡してしまうこともあるのだろう。
・狙われる国宝・重文
文化財保護法の施行（昭和２５年）から今年で６５年。国宝・重文は大切といいつつ、管理を所有者任せに
してきたツケがまわってきたともいえる。ここはやはり、一歩踏み込んだ対策が必要だ。
指定を受けることで、修理費などが補助される仕組みだから、所有者も義務は果たさなければならない。
もう一つの問題は、近年頻発している盗難事案だ。多くの文化財は、美術館や博物館に寄託されたり、
寺や財団自体が収蔵庫を設けて守ったりしている。ところが、小さな社寺などの場合、そうはいかない。
こうした犯罪が続く背景に、海外で高まる「日本美術」ブームがあるのは間違いない。
さらに、中国や韓国由来ということで狙われる事案も、続出している。長崎県対馬市の社寺から重文の仏像が盗まれ、
韓国で見つかった事件は記憶に新しい。明らかな盗品にもかかわらず、いまだ返還されていない。
韓国側では「かつて倭寇（わこう）によって略奪された文化財だから、日本に戻す必要はない」といった
法治国家とは思えない主張がまかり通っている。異常事態というほかない。
・「地元で守る」気概を
文化庁は追跡の継続と、再発防止策を打ち出した。都道府県教委を通じて定期的な調査を実施する、
防犯・防火のための補助事業を拡充する－などだ。市町村も改めて、地元にある国宝・重文の状態を点検してほしい。
地域を挙げて文化財を守る姿勢が重要で、そのために必要な予算は手当てすべきだろう。
取り戻す労力を考えれば、結果的にコストは安いはずだ。
文化庁が新規予算に地域の美術館や博物館の支援事業をあげているが、そうした部分で地元の文化財を守り、
公開を進めてはいかがか。それが地域振興につながればもっといい。
明るいニュースもあった。前回の調査で香川県内で不明だった重文「紫宸殿蒔絵硯箱（ししんでんまきえすずりばこ）」
が見つかったのだ。元の所有者が県外に転居後に死去、その人から購入した現在の所有者が文化庁に届け出た。
所在は神奈川県に移っていたのである。
１万件以上もの国宝・重文の現状をもれなくチェックするのは、簡単ではない。住民もまずはどんな文化財があるのかを知り、
「地域の宝」を自分たちで守る気概を持ち、普段から注意を払うことが必要だ。
と、考えて自宅近くを調べてみたら…なんと重文の神社や仏像が５件もあった。
いやはや、隗（かい）より始めよ、である。（やまがみ なおこ）
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