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★時代の正体(39) 慰安婦問題を考える 「性奴隷」とは何か
2014.11.09 12:00:00
戦場で日本兵の性の相手をする。それは「慰安」であったのか。旧日本軍の従軍慰安婦について朝日新聞が
一部報道を取り消したことをもって、慰安婦問題自体が捏造(ねつぞう)であるかのような言説が流布している。
いわく「慰安婦は性奴隷ではなく合法的な商行為。問題はそもそも存在しない」。果たして、そうか。
研究者によるシンポジウムから「性奴隷」とは何かを考える。
慰安婦問題など存在しないと主張する代表例が2007年、米紙ワシントン・ポストに掲載された意見広告だ。
〈日本軍に組み込まれた「慰安婦」はセックス奴隷ではない。世界中で認可されていたありふれた公娼
(こうしょう)制度の下で働いていた女性たちであった〉
保守系の識者や文化人が企画し、賛同者には自民党を中心に国会議員の名前が連なる。
確かに、戦前は特定の業者と女性たちが売春業を営むことが公認されていた。公娼が慰安婦に徴集されるケースもあった。
立教大の小野沢あかね教授はしかし、と口火を切る。
「慰安婦にさせられた多くは公娼とは無関係の女性たち。慰安婦のすべてが公娼だったという誤ったイメージを
流布させることで、軍の命令によって慰安所が造られ、日本兵の相手をさせられたという事実が隠蔽(いんぺい)される」
小野沢教授の解説が続く。
娼妓(しょうぎ)の契約では遊郭などから借金をし、親が受け取るのが慣習だった。借金を返済するまで廃業の
自由はほとんどなかった。親に売られたのと同じで、性奴隷制度といってよい非人道的なものだった。
「慰安婦はまったくの別物だが、公娼もまた性奴隷と呼ぶにふさわしい境遇に置かれていた」
その問題性はそして、当時から認識されていた。1872年の芸娼妓解放令に始まり、1930年代には全国各地の
県議会での公娼制度の廃止決議が相次いだ。神奈川県議会の決議文には「人身売買と自由拘束の二大罪悪を内容
とする事実上の奴隷制度なり」とある。
では当時の国際法に照らしてみた場合、どうだったか。1926年の奴隷条約を引くのは東京造形大の前田朗教授だ。
「条約でいう奴隷の概念は、自分の所有物だから使うことも売る、貸す、捨てることもできるということ。
奴隷状態にあったか否かは、強制連行のあるなしとは関係がない」
本人の意思に反して慰安所に入れられ、軍人の性の相手をさせられた慰安婦は当時の国際社会の認識からしても
奴隷状態と見なされていたとみる。
そしていま、小野沢教授が強調するのは「問題を持ち越す重大性」だ。日本は公娼制度の問題を認識していたにもかかわらず、
人身売買を禁じ、取り締まる措置を取らなかった。女性を公然と売買する業者が放置されたまま日中戦争を迎えた。
「そうした業者が慰安婦の徴集で軍の手先となっていた実態が分かってきた。人身売買業者がきちんと取り締まられていたなら、
慰安婦被害もこれほど広がらなかったかもしれない」
しかしいま発せられる声は慰安婦問題の存在を否定するにとどまらない。朝日新聞が取り消した、韓国・済州島で強制連行をしたという
「吉田証言」の記事について安倍首相は10月3日、衆院予算委員会で述べた。
「この誤報によって多くの人々が傷つき悲しみ、苦しみ、怒りを覚え、日本のイメージは大きく傷ついた。
『日本が国ぐるみで(女性を)性奴隷にした』との、いわれなき中傷がいま世界で行われているのも事実」
吉田証言はうそで、だから慰安婦問題は朝日が捏造したもので、結果、国際社会にうそが広まったという図式。
「強制連行でないから慰安婦は奴隷でないと主張するなら、それは戦前の日本の公式見解より後退することになる」と小野沢教授。
>>2へ続く
【神奈川新聞】
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