08/08/02 15:51:14 0
東條証言①
旧憲法においては、国防用兵、すなわち統帥のことは憲法上の国務の範囲外に
対立して存在し、国務の干渉を排撃することを通念としていた。
このことは現在では他国にその例を見ざる日本独持の制度である。
したがって、事、統帥行為に関するものに対しては、これを抑制し、または指導
する力を持たなかったのである。ただ、単に連絡会議、御前会議などの手段により、
これとの調整を図るに過ぎなかった。しかもその調整たるや、戦争指導の本件たる
作戦用兵には触れることを許されなかったのである。その結果、ひとたび作戦の
開始せらるるや、作戦の進行は往々にして統帥機関の一方的意思によって遂行せられ、
これに関係を有する国務としてはその要求を充足し、またはこれに追随して進む他なき
状態を呈したことも少なしとしない。
然るに近代戦争に於いては、この制度の制定当時とは異なり、国家は総力戦体制をもって
運営せらるるを要するに至りたる関係上、かかる統帥行為が微妙なる影響を国政に及ぼすに
至りたるに拘らず、日本に於ける以上の制度の存在は、統帥が国家を戦争に指向することを
抑制する機能を欠き、ことにこれに対し、政治的抑制を加え、これを自由に駆使する機関と
てはなしという関係におかれた。
これが歴代内閣の国務と統帥の調整にとくに苦心した所以である。
また私が昭和十九年二月、総理大臣たる自分の他に参謀総長を拝命するの措置に出たのも、
この苦悩より脱するための一方法として考えたものであって、ただその遅かりしはむしろ遺憾
とするところである。