08/07/20 21:01:06
オーケハンプトンに着いてすぐ、夫と私は日没の最後を見ようと外に出た。それは、全世界が息を
呑んでいるような夕暮れだった。私たちと沈み行く大要の間には黒々と荒野が横たわり、
その上では西空が氷河のようにミドリと金に輝いている。
ふいに何の前触れもなく、信じがたいほどの美しさに押し流され、私は次元の境界を越え
た。もはや私が<自然>を見ているのではなく、<自然>の女神が私を見つめていた。そ
して彼女は私たちの存在をうとじていた。私は、無数の無害な生き物が私たちの侵略に腹
を立てて身を潜めているとでもいった奇妙な感覚に自尊心をくじかれ、さらに、地平線で
風にそよいでいる小さな木までもが、嫌悪をこめて私たちから身をそらしていることに衝
撃を受けた。
「どうしましょう」。私は夫にささやいた。「私たち、ひどく嫌われているわ。こんな風に
おしかけてはいけなかったのよ」
夫は笑わなかった。夫もまた、侵略者になったように感じていたのだ。私は言った。検挙
にそっとたたずんでん、私たちは友としてきたのだ、荒野を静かに歩かせてください、と
心で訪ねてみたらどうかしら。私もまた、素朴な人々が樫とトリネコとイバラの古い魔法で自然
のものと結ばれていた遠い昔のことを考えていた。
この謝罪につづいて起こった驚異的なできごとを、自己暗示などといったこじつけで説明
する必要はないだろう。ありがたいことに、私はこれを研究者としてではなく、個人的な
体験として綴っているのだから。