07/05/11 00:55:23 Y+LypGfN
>>82 つづき
『沙石集』「勘解由小路の地蔵」現代語訳 完全版
この女房は、そうなるはずの運命だったのだろうか、烏丸を下っていった。暁の月を見たので、入道は馬に乗って、供の者を四、
五人ほど引き連れて出かけ、(この女房に)行き会ったのだが、女房が立ちどまって何か言いたげな様子しているのを見て、入
道は馬から降りて「何かおっしゃいたいことがありますか」と言うと、女房はたやすくは言い出さない。少し経って、女の童に取り
次いで言わせたことには、「申し上げるのは遠慮されるのですが、勘解由使小路の地蔵にここ数日来お祈り申し上げていたこと
がございますが、『この明け方の帰り道に、初めて会う人を頼りにしなさい』と、確かなお告げを頂きましたので、申し出るのも遠
慮されましたが、そうかといって申し上げないのもまた、どうかと思いまして」と言って、いかにも恥ずかしそうな様子である。この
入道は、長年連れ添った妻に先立たれて、三年になっていたが、この地蔵にお参りして、仏のお計らいに任せて、夫婦の契りを
結ぼうと思い、まだ妻も持たないでいたが、地蔵堂にお参りする道で、このようなことがあったので、あれこれ考えるまでもなく、
そのまま女房を馬に乗せて帰った。田舎に所領などを持っていて、貧しくもない武士入道であった。さて、この法師は、縦に横に
とあちこち走り、履物も片方だけはいて、汗を流し、息を切らして走りまわったけれども、どうしての女房と行き会うはずがあろうか。
世も明けてしまったので、広く色々な人に訪ねると、「そのような人は、これこれの所へいっしゃった」と言ったので、気が気でない
ままに、その家に行って「地蔵のお告げではないのだ。法師のお告げを馬鹿馬鹿しいことに信じてしまって」と騒ぐが、「これは何
者だ。狂人か」と、言う人はいるけれど、まじめに相手にする人もいない。心が濁っているのは、かいがない。信心深く仏のお言葉
だと信じて尊んだので、この女房は思い通りに願いが叶ったのだった。大聖人の方便はみごとなことであるよ。