06/10/01 00:44:48
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『近代日本の陽明学』
小島毅
出版社:講談社
浮薄な「伝統」礼賛を批判
日本の伝統思想をふりかえれ、と熱く語る人が、そのよりどころとして、明治時代の後半に
書かれた新渡戸稲造の『武士道』をとりあげるのを見るたびに、がっかりしてしまうのである。
この本を通読したことが本当にあるのなら、武士の気風も儒学の道徳もひとまとめにする
雑駁(ざっぱく)さや、西洋人の読者を意識したキリスト教の匂(にお)いに、どうしても気づくはずなのに。
新渡戸の言説の背景には、心情の純粋さを日本の国民性として謳(うた)いあげる、
日清・日露戦争のころの知識人の傾向がある。そうした「純粋動機主義」の称揚が、
徳川時代の陽明学から、明治の知識人による陽明学礼賛をへて、昭和のマルクス
主義者や三島由紀夫に至るまで、連綿とした系譜をなしてきた。これに対して小島毅の近著は、
中国思想研究の見識にもとづいて、動機さえ純粋であればどんな行為も許してしまう態度の
危うさを批判する。その病は、「心の問題」と口にしながら靖国神社へ参拝してしまう総理大臣にも、
及んでいるのである。(後略。評・苅部直)