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『置き去り―サハリン残留日本女性たちの六十年』 吉武 輝子(著) 海竜社
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敗戦より60年目の夏を迎え、国家から見棄てられたため集団自決したり残留孤児になったりした<満州開拓移民>
の悲劇を思い出す人も少なくないだろう。しかし、同様の悲劇が、北方のサハリン(樺太)でもおきていたことを知る人は多く
なかった。吉武輝子さんのこの新著は、その北辺の戦争悲劇に、<聞き書>という方法をもって正面から取り組んだ労作である。
アイヌ民族やギリヤークなど自然民族の民住地だったサハリンは、19世紀にロシアが植民地とし、20世紀初頭、日露戦争に
によって日本が南半分を領有してからは40万の日本人が暮らしていた。その中には、太平洋戦争期に入って強制連行されたり
した朝鮮人4万人あまりも含まれていた。
そして1945年の8月、ソ連の参戦=サハリン侵攻によって、在住の日本人・朝鮮人は地獄を体験、死者はおよそ1万人にのぼった。
15日の日本降伏の後にも、ソ連軍による空爆や潜水艦による引揚船攻撃は続き、多大の死者が出ているのは、s寝そうの現場とは
このようなものなのだろうと察しられて、本当に慄然とさせれる。
そしてそういう最初の悲劇の大波が引いたあとも、もっとも弱い立場にある若い日本女性の上には、新たな苦しみの波が襲った
のだった。すなわち、日本敗戦により戦勝民族となった朝鮮人の中には、日本国家への反感憎悪を近くにいる日本女性に向けて
噴出させた人もいないわけではなかったからである。
この状況において、若い日本の女性たちはどうしたか。彼女たちの多くは、生きるために朝鮮人男性の妻となり、子供を生み、
その家族愛に惹かされて、サハリンに留まり生きざるを得なかったのだた。そして吉武さんは、今は70、80代に達した彼女たちに
親しく接して、その事実と心情とを克明に記録さtれた。消滅寸前の人間体験と心情とが、辛うじて歴史化されたことを喜びたい。
(略
05・07・10日経読書欄 評者・山崎朋子(作家)