リトアニア語at GOGAKU
リトアニア語 - 暇つぶし2ch655:代行さん
10/01/02 23:18:22
>>654
ちょっと専門的な話なので分かりにくいと思いますが、印欧語の場合、その言語が
守旧的かどうかは一概に保存される格の数などの文法現象だけで判断されるとは
限りません。
リトアニア語より明らかにより古風な古プロシア語には中性名詞がありますが、
リトアニア語にはありません。しかしこの点でも、じゃプロシア語がより印欧語と
してより守旧的かと言うと、そうとは断言できません。
なぜなら、ヒッタイト語が暗示するように、原始印欧語(初期印欧祖語)には
もともと文法性は存在せず、生物類名詞と非生物類名詞の区別しかなく、
文法性は後期印欧祖語で発達したカテゴリーで、中性名詞は非生物類名詞から
発して出来たものという可能性もあるからです。だから、リトアニア語における
中性名詞の消失は、それによって男性名詞と女性名詞の二つの「言語形態の対極的
配列」を現出せしめ、それは初期印欧祖語の生物類・非生物類名詞の対立という、
やはりニつの形態の「対極的配列」を想起されるからです。
これはリトアニア語が遠い初期印欧語の記憶を保っているから生じた簡略化と
も解釈され、もしそうなら結局リトアニア語はその簡略化によって守旧性を示すとも
言えることになります。
因みに双数は標準リトアニア語にはありませんが、方言によってはまだ使われる
ことがあり、私自身 kada mudu ?enysivos? 「いつ僕たち(二人)は結婚
出来ますか?」のように、「結婚する」というような、双数形が本来使われる
べき表現においては(リトアニア人に古臭い表現と笑われようと)頑として
使用し続けていますw

これ以上の詳細は巻き添え規制が解消されてから、改めてレスします。

656:655
10/01/04 23:23:47
リトアニア語の古態性は、主としてその名詞の格組織とアクセント体系にあると
言えます。
例えばリトアニア語には具格(~をもって、~を伴って)という、ラテン語にも
ギリシャ語にもない、独立した格があります。
vyras 「人」の単数具格は vyru <*vyruo <*vyro: ですが、これに比較しうる形
を持つのはヴェーダのサンスクリットだけです。しかしサンスクリット vi:ras
「人、英雄」のそれは普通 vi:re:Na であって、この語尾 -e:Na は二次的なもので、
稀に現れる vi:ra: が直接リトアニア語の -u <*-o: に相当します。
(サンスクリット vi:re:Na: の -e:Na: も二次的で、多分先述の -e:Na と
-a: が混同されたもの)
このように、リトアニア語では今から3千年前のサンスクリットにやっと見出される
ような形態が、今も普通に使われます。

657:655
10/01/04 23:44:45
更にリトアニア高地方言の東部下位方言では位格(処格ともいう;場所を
表す)が miesti 「町で」(miestas =町)のように、-as で終わる男性名詞
では標準語の -e ではなく -i <*-ie <*-ei となりますが、この語尾こそは
ラテン語 humi: 「地上で」(humus = 地上)の -i: <*-ei やギリシャ語
方言 oikei (「家で」=oikoi; oikos 「家」)の語尾 -ei に見える
それそのものです。
ただし、ラテン語やギリシャ語ではこの語尾は特定の語について、副詞的に
ほとんど化石的に用いられるだけで、パラダイム(語尾変化表)には存在せず、
前置詞 in, en が使用され、この位格語尾を規則的に使用するのは
サンスクリットとリトアニア語だけです。
そのリトアニア方言では家畜のことを pekus (標準語では gyvuliai)
と言いますが、上の vyras (:サンスクリット vi:ras) といい、この語
(:ラテン語 pecus) といい、今から数千年前の形がほぼそのまま残って
います。こんな言語は他に全く例がありません。
リトアニア語のアクセントは様々な改変を被っていて、古代ギリシャ語や
上代ヴェーダ語よりは遥かに革新的ですが、アクセントがどの音節にも
来れること、それが可動であること、長母音と二重母音に音調の
区別があることなどが守旧的とされる理由です。

658:何語で名無しますか?
10/01/04 23:50:29
リトアニア人はインド人だったのか!ジプシーということか

659:655
10/01/05 00:07:53
しかし、>>655でも書いたように、これら古い具格や位格の保持がそのまま初期
印欧祖語の形態を反映しているかというとそれは又別の難しい問題で、古代ギリシャ語
が事実上主・属・与・対格の4つ(呼格を含めれば5つ)しか持たず、それは
ゲルマン語や、更にはいろんな点でリトアニア語より更なる守旧性を示す古代
プロシア語さえにも共通であることを考慮すると、この4格組織こそが初期の
古い形態を反映するもので、具・位・奪格などは後期印欧祖語において
後置詞や小詞などが接尾することによって新たに発生した、比較的新しい格で
あり、必ずしも守旧的な事象とは言えない可能性もあります。

このように、何を持って「守旧的」というかは難しい問題で、我々が一般に
「リトアニア語は古風な言語」という時、それは「現代の印欧諸語の中では
並外れて古い形態 -それらは数千年前のサンスクリットやラテン語・ギリシャ語
とも直接比較しうるようなもの- を保持している」という意味です。

因みにリトアニア語の動詞の活用体系は上記3古典語とは比較にならないほど
簡略化されていますが、ただ(現在・過去)分詞の用法はかなり複雑で、
しばしばサンスクリットにしか見られないような古い現象も観察されます。 

660:655
10/01/05 00:20:56
>>658
ジプシー語は中世インドのプラークリットに起源を持つことがほぼ確定
しているが、その中世のアーリア系言語でさえリトアニア語のような古い
形態は保持していない。
リトアニア人と上代のアーリア系インド人は、今から5千年以上遡れば
同じ祖先に行き着く可能性はあるが、少なくとも過去4千年に渡って一切
無関係。

661:何語で名無しますか?
10/01/05 01:59:27
ある民族が異民族を次々と取り込んでいくと言語が文法や音声の面で単純化していくそうだが、
バルト諸語が最も古臭くて、次にスラブ諸語が古臭いという事実は、
両語群の話し手が長く少数で孤立していて、古代か中世初期のある時期にスラブ語群のほうが急拡大したことを示している?


662:655
10/01/05 04:42:35
>>661
その通り。バルト民族は古来より排他的、好戦的な民族で、特にプロシア
人はチュートン騎士団に徹底抗戦したため殲滅させられたほど。
なぜリトアニアがヨーロッパ最後の異教国だった(古代キエフ・ルーシは
10世紀にはキリスト教化しているのと比較せよ)かでも、その排他的な
民族性が窺える。
加えて現在のバルト民族居住地域が河川、湖、沼沢、森などで他民族に
侵略されにくい地形で、また彼らが根っからの農耕民族で、あまり異民族
との交流がなかったことも要因の一つ。
スラブ人は古代に北欧(ゲルマン)民族やイラン語話者などとかなり
深く交流していた。(特に古いイラン語からの借用語には「神」、「天国」
など宗教的・精神文化的に重要なものも多く、その混交の濃密さが窺える。)
古代にバルト民族がかなり深く交流していたのは非印欧語族のバルト・
フィン人たちだけといっても過言ではない。
バルト人とスラブ人はかなり近いと言われているが、彼らの諸言語と
文化を精査してみれば分かるように、その交流史はさほど古いものでは
なく、また比較的表面的といえるような場合も多い。

663:何語で名無しますか?
10/01/05 23:58:23
>>654です。代行さん、とても親切で詳しい解答をありがとうございます。
言いだしっぺの癖にお礼を言いに来るのが遅くてごめんなさい。

興味深いお話が聞けてよかったです、いまνエクスプレス注文してるので
届くの楽しみになりました。


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