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>>148
魯迅の『狂人日記』と中国の「食人」の伝統
さて『やはり奇妙な中国の常識』に魯迅の『狂人日記』からの長い引用が出ていた。中国人の
「食人」、つまり「人肉食」の伝統について説明する為に引用されていたのだ。引用文は竹内好氏
の翻訳したものであったが、翻訳というものについても関心があったので。私は中央公論社の
文学全集の一巻として高橋和巳氏が翻訳した魯迅集を持っていたので竹内氏の訳文と比較して
みた。『狂人日記』は一人称で書かれているのだが、竹内氏は「おれ」、高橋氏は「わたし」と訳し
ていた。内容に則して判断すると、岡田氏が引用しているように竹内氏の「おれ」の方が適して
いると思う。
ところで『狂人日記』のおれは、食人という言葉を何度も繰り返して書き、自分がその対象に
なっていると妄想している。われわれ日本人には食人などということは天から思いも及ばないこと
であるが、おれは以下のように日記に書いている。
「四千年来、絶えず人間を食ってきた場所、そこにおれも、なが年暮らしてきたんだということが、
きょう、やっとわかった。・・・・・・・
四千年の食人の歴史を持つおれ。はじめはわからなかったが、いまわかった。」(ちくま文庫P35)
狂人が書いたこの文章の意味は、果たして何だったのだろうか。高橋和巳氏は魯迅集の解説で
『狂人日記』に触れて次のように書いている。
「たとえば過去の中国の制度が、人に養われる者が人を治め、表に礼教を説きながら、人に養わ
れる者が人を養ってくれる者を圧迫し踏みにじってきたことに気づいたとき、彼はそれを『人が人を
食う』というかたちに無限化しつつ、自分の口もまた、知ると知らざるとにかかわらず血に汚れている
のだと考えた。」(P479)