06/11/17 12:56:04 fTeYnN91
淡青の空の下、午後の会話。
「博士課程に進学したいのですが」
-今日に限って端正に見えなくもない顔だけど、本気(マジ)かい。
「じっくり研究がしてみたくて」
-のんびりじゃないだろうね。少年易老学難成と言うよ。
「家族も応援してくれていて」
-今のうちはね。仏顔(ホトケガオ)の間にせいぜい頑張った方がいいよ。一寸光陰不可軽とまでは言わないけれど。
「先輩も結構リッチで楽しそうだし」
-確かにDCで月20万、PDで40万弱、もっと高給の博士研究員(ポストドク)もあるけど、皆がなれる訳じゃないよ。
「指導してもらえますよね」
-いくら私が丹精してみても博士号(ドクター)と任期付(ターミナブル)職が関の山だろうけどね。君の希望する大学教員(アカデミックポジション)の常勤職(テニュア)は難しいよ。博士研究員(ポストドク)がやたら増えたのに常勤職(テニュア)は減っているのだから。
「食っていければ贅沢はいいません」
-30年前に聞いた名誉教授の「飢え死にした人はいないよ」という台詞(セリフ)と、最近「今じゃ博士進学は自殺行為、勧誘は自殺幇助」と言った知りあいの教員の顔が交互に頭を過(ヨ)ぎるんだけど。
「結婚や育児を考えると少し不安ですが」
-明日は無職(プー)かもしれないからね。研究者に少子化の選択圧が余分に掛かると絶滅危惧種になる可能性があるかも。
「やはり好きなことをやれる生活が幸せかと」
-雑用と会議漬けの私を見ているだろうに、学生の間は未覚池塘春草夢ということか。そもそも私は今好きなことをやっているのかな。そういえば最後に顕微鏡を自分で操作したのは何時だろう。階前梧葉己秋声ってことだな。
「一応迷ったのですが」
-で、何で決心を。
「先生を見ているとなんとかなるかと思いまして」
-嘆声。
東京大学学内広報
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