03/12/23 08:32
「本当なのだ、この国は身も心も嘘と偽りにささげている。ロシアを支配しているのは欺瞞だ」
ここでいうロシアは「帝政ロシア」か「ソ連」か、それとも今のロシアか。この有名な文章を書いたのはフランス
の外交官だったマルキ・ド・キュスティーヌで、19世紀半ばのことだから、正解は「帝政ロシア」。だが「どの時代
のロシアにもあてはまる」という答えも、おそらく正解だろう。
石油会社ユコスを率いる政商ミハイル・ホドルコフスキーとウラジーミル・プーチン大統領の一騎打ちをみる
がいい。体制や国名が変わっても、ロシアという国の体質に変わりはない。
私が初めてモスクワに赴任したのはブレジネフ政権末期の80年代前半で、すでに体制のほころびが見えは
じめていた時代。ソビエト体制はロシアの過去を引きずっていると論じるときに、キュスティーヌの名言はよく
引用された。
たとえばアメリカの歴史学者リチャード・パイプスは「ロシアの警察的メンタリティーは体制が変わっても変わ
らない」と論じている(キュスティーヌ流に言えば「ロシアでは恐怖が思考を押しのけ、マヒさせる」)。そして
ホドルコフスキー逮捕劇の舞台裏に関する最近の議論(ロシアの資本主義もプーチンの「管理された民主主義」
も、実はまやかしではないかという深刻な議論)も、私にはとてもなじみ深いものに思える。
私はソ連時代を知っている。今のロシアはソ連とは違う。見た目も雰囲気も違う。
同じように、ソ連の体制も帝政ロシアとは大きく異なっていた。パイプスはソ連のシステムを帝政ロシアの
抑圧的体質の延長とみていたが、それは違う。ソ連の恐怖政治に比べれば、帝政ロシアのやり方は素人芸に
等しかった。だが今回のような危機的状況が訪れると、時代や体制の違いを超えた共通項が浮かび上がる。
権力第一、経済は二の次 アンドルー・ナゴースキー(元モスクワ支局長
大物実業家ホドルコフスキーが逮捕された裏側にソ連時代から変わらないこの国の権力者の体質が見える
ニューズウィーク日本版 2003年11月19日号 URLリンク(www.nwj.ne.jp)