03/08/02 12:46
■戦争が暴く権力者の本質
国家は、その敗退のときに虚構なき姿を露呈してしまう。
今回のイラク戦争で、われわれはさまざまなものを見てしまった。精鋭部隊はほとんど抵抗
をせず消滅した。絶対的な権力で国民を畏怖させていた指導者は、逃亡し、行方不明だ。
残された市民は略奪に精をだし、国の誇りである文化遺産までもが失われた。
私はここでイラクを侮蔑しようというのではない。私が述べたいのは、類似のことが他の国
でも起こりうることだ。実際、権力者の逃亡という事態は、つい60年前の旧満州でも起きた。
これは、日本の歴史においてぬぐい去ることのできない汚点である。その状況は、半藤一利
『ソ連が満州に侵攻した夏』に詳しく描かれている。
撤退の際の列車輸送は民・官・軍の家族の順と決められたが、実際には完全に逆に、つま
り権力の順になった。上級軍人の家族を乗せた列車がまず出発し、一般人が駅にくると憲
兵に追い払われた。
逃げたのは家族だけではない。軍上層部そのものが逃亡した。関東軍総司令部は「移動」
と称し、「各部隊はそれぞれの戦闘を継続し、最善を尽くすべし」との命令を残して退却した。