20/05/11 11:19:51 WIrEXINv.net
母鯨をおびきよせるには子鯨を倒しさえすればよい。母親は子鯨のところへ急ぎ、銛を何本か打ちこまれても
生命のあるかぎり子鯨から離れることはないのだ(スコールズビ『捕鯨航海日誌』クリース訳一九六頁)。
ニュージーランド近海の三王島には海象ともよばれる巨大なせいうち(学名 phoca proboscidea)
が棲息する。きちんと群をなして島の周囲を遊泳し魚類を食とするが、しかし水中にわれわれの知らな
い恐るべき天敵がいて、これによって彼らはよく深手を負わされる。そこで彼らの集団遊泳には独特の
戦術が必要となる。すなわち雌が岸にあがり、そして雌が授乳しているあいだ、これは七、八週間であ
るが、すべての他の雄はその周囲に円陣をつくり、雌を妨害して飢えて海にはいることがないようにする。
雌がこれをしようとするとかみついてこの邪魔をするのである。かくて彼らすべては相共に七、八週間
飢えてまったく瘦せ衰えるわけだが、しかもこのことたるや、子供らが泳げるようになり、また突いた
りかんだりしてみせて教えこんだ大切な戦術を彼らが実行できるようになるまで水にはいれないという
ただそのために行われるのだ(フレシネ『南極旅行記』一八二六年)。ここでもまた、意志のあらゆ
る強烈な奮闘と同じく母親の愛がいかに知能を高めるかということが示されている(第一一九章六参
照)。―鴨、グラースミュッケ〔うぐいすの一種〕その他多くの鳥類は漁師が巣に近づくと高声で鳴き
ながらその足元を飛び、まるで翼がなえたかのごとくにあちこちばたばたとはばたいて、漁師の注意
を子供からそらせ自分のほうへ引きつける。―ひばりは自分自身が犠牲となって犬を巣から引きはな
そうとする。鹿や野呂鹿の雌も同様で、子供たちが襲われぬように自分自身が追われるべくしむける。
―つばめは子供を救うために、あるいはいっしょに死ぬために向得ている家のなかへ飛び込むもの
だ。デルフトで大火があったとき、こうのとりが、まだ飛べないひなを捨てきれずに自ら巣で焼け死ん
だ(H.ユニウス『オランダ事情』)。大雷鳥とやましぎは巣で卵をだいているところを捕まえることがで
きる。