【ガンダム】新人職人がSSを書いてみる 23P目【クロス】at SIBERIA
【ガンダム】新人職人がSSを書いてみる 23P目【クロス】 - 暇つぶし2ch58:ペルデス 3rd PHASE 22 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/25 23:26:26.74 発信元:114.189.47.247
 そこに千枝が身を乗り出して、

「先言っとくけど、昨日みたいにキレて暴れるのは絶対止めてよね。特に、雪子に絶対に手ぇ出さない事」

やったら顔面靴跡の刑にすっから、と目をきつく吊り上げて釘を刺してくる。特に、と雪子に対して特別
念を押す辺り、彼女と雪子は相当に仲の良い間柄のようだ。
 それに対し、おずおずとシンが頷き返すと、よろしい、と満足したようにその顔が微笑む。
 そして、そのタイミングを見極めたかのように、

「えー、それでは“稲羽市連続誘拐殺人事件”特別捜査会議を始めます」

と、陽介が宣言した。

59:ペルデス 3rd PHASE 23 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/25 23:31:42.49 発信元:114.189.47.247
「最初の議題だけど、まー、まずはシンの身の上と今後について、だな?」

 稲羽市連続誘拐殺人事件 特別捜査会議。
 何とも長いその名称を千枝に突っ込まれた後、陽介の視線がシン、悠の順に向けられる。それが確認の意を込めた
アイコンタクトだと察するのは容易だった。
 その視線に、相槌で悠は返した。
 なお、現在の席位置は男子と女子が机越しに向かい合うように、それぞれ長椅子の上に座っている状態で、
露店に近い側から女子は雪子、千枝、男子は悠、陽介、そしてシンの順で並んでいる。
 そして、男子の露店から最も遠い側、つまりシンが、待ってくれ、と声を上げたのは、悠の相槌を打ってすぐの事だった。

「さっきから捜査会議がどうとか言ってるけど、一体何の集まりなんだコレは?」

 何?
 困惑したような素振りを見せるシンを、悠を始めとした一同が一瞬驚いたように目を丸くする。だが、一様に疑うような光を帯びた
それらの視線が、すぐさま陽介へと殺到した。

「ちょっと花村、どういう事?」

「もしかして、まだ“事件”や私達の事、話して無いの?」

 問い詰める千枝と雪子の言葉に、ぎくっ、という露骨な悲鳴を洩らす陽介。

「いやー、なんつーかさ。メシ食い損ねたり服の話してたりで色々話しこんでたら、もうこっちに着いちゃっててさ」

「アンタね~」

60:ペルデス 3rd PHASE 24 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/25 23:37:28.83 発信元:114.189.47.247
「―それが、さっき言ってた“稲羽市連続誘拐殺人事件”とかって奴か。で、お前らはその事件を自分達で追うために、
その、特別捜査隊とかってのを結成して、実際に調べてると?」

「特別捜査隊っていうのは、今決まった話だけどな」

 シンの問いに、悠を始めとした特別捜査隊の面々が首を縦に振って肯定する。すると、どこか不愉快そうな表情を
浮かべながら更にシンが尋ねてきた。

「あのさ、こっちの世界にも警察はあるよな? ちゃんとその事件の捜査はしてるんだよな?」

 その問い掛けに頷きで返すや、真紅の双眸を鋭く細められる。

「だったら悪い事は言わない。そんな事に首を突っ込むのは止めろ」

 真剣さに満ちた重々しい声で告げられたその言葉に、千枝と雪子もシンの方に顔を向けた。
 この話を切り出した時に返ってくるかも知れないと、悠が陽介と共に現れるまでに彼女らと予測し合っていた答えが、
まさに今の彼の言葉そのままだったからだ。

「お前らのスクールの先輩が殺されたから、犯人を捕まえてやるって気持ちは分かるよ。だけど、お前ら唯の民間人の学生だろ?
何か訓練してる訳でも、そうしなきゃいけない義務があるわけでも無いんだろ? 相手は二人も殺した殺人犯なんだろ?」

 シンは、自分の事を軍人だと言っていた。
 軍人は自らの国と国民を守る事が生業だ。そのための訓練を積み、そのための分別と誇りを持っている。そういった点では、
警察とさほど変わりは無い。
 だからこそ、軍人や警察は民間人が自らの領分に首を突っ込む事を嫌う。守るべき相手が、自分から災厄の渦中に身を晒しては
自分達の面目が立たないし、何より守る側も守り切れないからだ。
 そして、恐らくはシンも少なからずそういった思考を持っている。そのため、こういう返答を返すだろう事を想像するのは
容易いことだった。

61:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/02/25 23:43:13.01 発信元:122.133.141.180
ペルデスさん、お待ちしておりました

62:ペルデス 3rd PHASE 25 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:02:49.99 発信元:114.189.47.247
すみません、またバイバイさるさんに引っかかってしまいました。



「素人が遊び半分で首突っ込んで良い話じゃない。警察に全部任せるんだ」

 悠達の顔を見回して、キッパリとシンがそう言い終えた。
 だが、だからといって、はいそうですかと首を引っ込める訳にはいかない。
 自分達の安否を心配する気持ちが少なからず含まれたシンのその言葉に対し、悠は首を左右に振る。

「警察には無理だ。この事件は、“俺達”じゃなきゃ解決できない」

63:ペルデス 3rd PHASE 26 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:09:48.32 発信元:114.189.47.247
「この事件は“俺達”じゃなきゃ解決できない」

 冗談を一切含んでいないという真剣な面持ちで、冗談としか受け取れないような
その言葉を平然と悠が言い放った。
 その言葉が、“ミネルバ”でC.Eの地球に降下してしばらく経った頃の記憶を呼び起させ、
シンの神経を逆なでた。

「フザけんな!」

 キレるな、と事前に念を押されてはいた。というよりは予防線を張られていたのかもしれないが、
そんな事は急激に湧き上がった分からず屋共への怒りによって一瞬の内に追い流された。
 机を叩き、勢い良く立ち上がってシンは吠えた。

「お前ら、自分が何やってんのか分かってんのか!? 素人が勝手なマネして! “ヒーローごっこ”じゃ済まないんだぞ!」

 以前、建設途中の連合軍の基地を身勝手な正義感で攻撃した事を咎める意味でアスランに言われたのと同じ言葉を、
無意識の内にシンは吐いていた。
 警察にせよ、軍人にせよ、一般人には所持し得ない強力な権限と武力が認められているのは、その職務が往々にして
危険性を孕んでいるからだ。それ故に、そういった職に就く人間には自らの責務が持つ危険性を理解し、自分のみの
テリトリーだと自覚する事が必要になる。特別な訓練を積んでいる訳でも無い、固い覚悟があるわけでも無い、
“守られている側”であるべき唯の民間人が遊び半分でそのテリトリーに首を突っ込んでは、火傷どころでは済まないのだ。
 自らも私情故の勝手な行動が多かったシンだが、それでも、その領分程度は弁えているというつもりだし、
元より誰かを守る力を身に着けるために軍に入った身だ。その彼が、少年少女達の軽率ともいえる行動に待ったを掛けない訳が無い。

64:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/02/26 01:10:45.38 発信元:122.133.141.180
支援

65:ペルデス 3rd PHASE 27 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:16:38.42 発信元:114.189.47.247
「……ハハ、“ヒーローごっこ”か」

 シンの怒声にしんと静まり返った場から、暫くして苦笑混じりの声が上がった。
 陽介だった。

「実際、小西先輩が被害にあって“事件”の事調べようって言い出した時は、ツマンネー田舎暮らしに
良い刺激が出来るかも、これで俺もちょっとした“ヒーロー”だって。少なくとも俺はそう思ってたもんな」

 耳が痛ーや、とバツの悪そうにそっぽを向いて頭を掻く陽介。
 だが、不意に真剣な表情に変わったその顔がシンに向けられる。

「分かってるさ。オレらみてーな高校生が、遊び半分じゃなかろーがこんな事に首突っ込むべきじゃねぇって。
だけど、この事件はオレらじゃねーと解決できねぇ。警察にゃ無理なんだよ」

「さっきも言ってたな。警察には解決出来ない、お前らだけが出来るって。何でそう言い切れるんだよ、答えろ!」

 専門家を差し置いて、素人の自分達だけが事件を解決できると執拗に答える以上、彼らにはその根拠がある筈だ。
 それがしょうもない理由だったら頬の一つでも殴ってやろうと、机の影に握った拳を隠しながらシンは返答を待った。
 そこに返って来た言葉は予想の斜め上をいくものだった。

「犯人の手口だよ」

「手口? どうやって殺したかってことか?」

「小西先輩の時にもしかしたらって思ったんだ。で、やっぱりそうだった。―放り込まれたんだよ、
先輩も、山野アナも。“テレビの中の世界”に」

「!?」

66:ペルデス 3rd PHASE 28 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:22:12.09 発信元:114.189.47.247
“テレビの中の世界”に、放り込まれただと!?
 陽介の告げた“事件”の手口に、驚愕のあまりシンは目を剥く。
 何の変哲も無い、唯の猟奇的で凶悪な連続殺人事件とばかり思っていたのだ。それが、
まさかあんな常識を逸脱した世界が関わっていていようなどと、どうして予測できようか。

「ちょっと待てよ! あの世界には“シャドウ”って化け物がいるんだろ? そんなところに入れられたら―」

 シンの頭に、再びあの“デスティニー”の化け物の姿が浮かび上がる。
 あの時は、偶然“ペルソナ”が覚醒したために難を逃れることが出来たが、そうで無ければシンは確実に殺されていた。
 もし、山野 真由美や小西 早紀がシンと同じように“ペルソナ”に覚醒しなかったなら―。

「そうだ。山野アナも先輩も、二人とも“シャドウ”に殺されたんだ」

「二人だけじゃないよ」

 ふと、二人の会話に千枝が口を挟み、隣に座る雪子の方に顔を向けた。
 見れば、何か嫌な記憶を思い出したように雪子は俯いている。その態度にまさかと思い
シンが尋ねると、雪子はゆっくりと首を縦に振った。

「うん。―千枝達が助けてくれなかったら、私も、“シャドウ”に殺されてたかもしれない」

67:ペルデス 3rd PHASE 29 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:30:02.82 発信元:114.189.47.247
 つまり、彼女は三人目の“事件”の被害者にして、犠牲者になっていたかも知れない人物。そして、
“事件”の裏側を知る生き証人の一人ということになる。
 凶器は“シャドウ”であり、よりマクロな範囲で見れば“テレビの中の世界”。
 突き詰めれば、“テレビ”。
 その“稲羽市連続誘拐殺人事件”とやらの手口を、真実を知る、その一人であると。

「……嘘だろ?」

「いや、全部ホント。けどよ、こんなの警察が、いや普通の人間が信じると思うか?」

 あまりの事に驚愕するあまり、分かり切った陽介の問いにぎこちなく首を左右に振ってシンは答える。
 実際に“テレビの中の世界”に下り立ち、実際に“シャドウ”に襲われたからこそ、彼らの話をシンは多少なりとも
理解することが出来るのだ。彼と同じ体験を経ていない者に同じ内容を話したところで、こんな常軌を逸した話など夢だ
妄想だと一笑に附されるのが関の山。ましてや、警察など門前払いも甚だしいところだ。
 それに、仮に信じる者がいたとて、今度はどうやって被害者を助けるかという問題がある。

「それに、“シャドウ”に普通の人間は勝てない。戦えんのは“ペルソナ使い”―オレらだけだ」

 “デスティニー”の化け物に襲われた時シンは武器を持っていなかったが、仮に持っていたとしても
無意味だっただろうことは容易に予測できた。
  “シャドウ”は人の常識を超越した存在だ。アレにはどんな武器も恐らく意味を為さない。剣も、銃も、それこそMSでさえも。
 対抗できるのは、同じように常識を逸脱した存在である“ペルソナ”と、それを操る“ペルソナ使い”のみ。
それを、実際に“シャドウ”と対峙し、“カグツイザナギ”を操って実績したことで、シンは身を持って知った。
 詰まるところ、陽介達の言った通りなのだ。

68:ペルデス 3rd PHASE 30 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:38:38.99 発信元:114.189.47.247
 “テレビの中の世界”を始めとした超常現象の存在や“事件”への関与を突きとめる事も
認める事も出来ず、また被害者を助ける手段も持たないといっていい警察に“事件”の解決は不可能。
それが出来るのは、それらの超常現象の存在と“事件”への関係性を知っていると共に、
“シャドウ”に対抗する術を持つ“ペルソナ使い”のみ。

「で、だ。ここまで長々話を聞いて色々知っちゃったお前に、オレらは一つ頼み事をしてーワケよ」

「頼み事?」

「ああ。“シャドウ”に対抗できるのは“ペルソナ使い”だけだっつーのはさっき言った通りだけど、
だからって勝てるかどうかっつーのはまた別の話だ。それに、“ペルソナ使い”は今んトコここにいる奴らしかオレらは知らない」

 つまり、鳴上 悠、花村 陽介、里中 千枝、天城 雪子。そして―。

「だから、確実に被害者を助けるためにも、一人でも捜査に協力してくれる仲間が欲しい」

「つーワケでよ、シン。―オレらと一緒に“事件”を捜査してくれねーか?」

―シン・アスカ。

69:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/02/26 01:40:10.08 発信元:122.133.141.180
支援

70:ペルデス 3rd PHASE 31 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:46:10.62 発信元:114.189.47.247
「―で、結局昼間の答えまだ聞いてねーんだけど?」

 開けっ放しの彼の部屋の出入り口を潜り抜けてそう尋ねながら、両手に持ったジュース入りの
コップの片方を陽介が差し出してくる。
 それを、サンキュ、と礼を返しながら、シンは受け取った。

「今考えてる」

 コップに口を付けながらの答えに、呆れたように陽介が溜め息を吐いた。

「まぁ、また“シャドウ”とやり合う事になるし、あんまりやり過ぎっと犯人だけじゃなくて、
警察からも目付けられるかもしんねーけどよ。“事件”解決出来んのはオレらだけだし。えーと、
こ、こず、子連れ……」

「コズミック・イラ」

「あーそれそれ。そのコズミック・イラとかっていうお前の世界に帰る方法だって、
もしかしたら見つかるかもしんねーしさ!」

 半ば励ますように、語調を上げて陽介がそう言う。だが、その言葉が彼の迷いに
然したる光明も射す事は無く、

「―そういうことじゃない」

左右に振った首に再び溜息を吐く陽介を無視して、シンは思考を続けた。

71:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/02/26 01:49:20.67 発信元:122.133.141.180
支援

72:ペルデス 3rd PHASE 32 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 01:54:11.87 発信元:114.189.47.247
 特別捜査隊に入れという申し出に対し、取り敢えずその返答をシンは保留する事にした。
 陽介や他の特別捜査隊の面々はその理由を、警察を差し置いて“事件”を捜査する事への抵抗や、再び“シャドウ”と
合い見える事への恐れだと考えているようだが、実際はそうでない。
シンは戦争という理不尽から人々を守るために軍人になった。だから、アスランに“ヒーローごっこ”と揶揄された一件のように、
いざという時に規律や調和が邪魔となれば、平気でそれを踏み越えて自身の意志のままに人々を守ろうとする。少なくとも、
シン自身が認識する上では、彼はそういう人間なのだ。
 確かに、ザフトのトップエースにまで登り詰めたとはいえ、MSパイロットでしかない彼は事件捜査という点では特別捜査隊の面々同様
素人であるし、“シャドウ”という全くの未知といってもいい化け物への恐怖が無いわけではない。だが、そんなもののために自身が
救い出す事が出来る人々を見捨てるのかといえば、それは絶対に有り得ない。だから、“事件”の捜査と被害者の救出については、彼はほとんど賛成の立場だった。
 では何を悩んでいるのか。
 ずばり、特別捜査隊の一員として、彼らに協力する事を、だ。
 特別捜査隊の面々は、皆何の訓練も受けていない“ナチュラル”の高校生だ。それが、対抗する術こそ持ち合わせていなかったとはいえ“コーディネイター”の軍人である
シンさえ死の危機に瀕した化け物を相手取り、正体不明の凶悪殺人犯を追ってきたというのだ。それに協力するということは、彼らがその危険を冒し続ける事を容認することに繋がる。
 いくら全員“ペルソナ使い”であるといっても、その捜査活動は唯の少年少女達が行うにはあまりに荷が重いように思え、シンは首を縦に振れなかった。
 では、自分の一人で捜査をすべきかと考えて、しかしそちらも彼は躊躇した。
 前述したように、シンは捜査隊の面々と違い、訓練も受けていれば、彼らが一生遭遇することも無いような修羅場を幾多も潜り抜けてきた経験もある。だが、
それはあくまで対人や対MSでの話で、それらが“シャドウ”相手にどれだけ有利に働いてくれるかはこれまた全くの未知だ。

73:ペルデス 3rd PHASE 33 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 02:06:08.54 発信元:114.189.47.247
 それに、“ペルソナ”での戦闘は今のところたった一度だけ、それも半ば茫洋とした意識下で行ったものだったため、
その感覚がどういったものなのか未だ掴めていない。もしそれが対人・対MS戦の感覚から大きく懸け離れたものだったとしたら、
今までの訓練や経験はほとんど役に立たない。最悪、それが足枷になることとて考えられる。そんな有様では、被害者の救出どころか、
今度こそ自分の命を失うハメになるかもしれない。
 それを考慮すれば、自分よりも速く覚醒し、既に“ペルソナ”での戦いを経験している特別捜査隊の面々と協力した方が、
より確実に被害者の救出や“事件”の捜査を行えるのではないか。
 それに私欲的な話だが、“事件”の裏側が裏側なだけに、“テレビの中の世界”も必然的に調べることになる。もしかしたら、
陽介の言うとおりその過程でC.Eに帰る手段が見つかるかもしれない。そのため、そういう面でもより“テレビの中の世界”について知る
彼らと協力した方が、元の世界に帰られる確率が高いといえる。
 つまり、特別捜査隊の一員として陽介達と協力した方が旨味はあるが、そのために民間人の彼らを危険に晒すことを嫌い、シンは迷っているのだ。

「ま、好きなだけ悩んでくれよ、っと」

 再三の溜息を吐いた後、陽介が視線を入口上側に掛けられた丸時計の方に向けた。

「―そろそろ0時だな」

 時計盤を読み取ったのだろう彼の呟きに、一旦思考を中断してシンも丸時計に目を遣った。
 丸時計は、長身と短針が共に12時付近を指し、秒針が丁度3時を通り過ぎた所だった。
 続いて、ベッド奥の窓まで身を乗り出し、カーテンを少しだけ開いて陽介が外の様子を覗く。

「予報通り、雨は降ってるっと」

 今日も見れそうだな、という陽介が呟く傍ら、電源の入っていないテレビの画面を見つめながら、
特別捜査隊加入の問いの後の事をシンは思い出していた。


74:ペルデス 3rd PHASE 34 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 02:13:44.79 発信元:114.189.47.247
 件の問いに保留の返答を返した後、一旦その話題は打ち切られ、代わりにこれまでの捜査経緯を彼らが話し合うのを、
シンは横から聞く事になった。
 彼らの話は何も分からないシンも同席している事を考慮したらしく、態々触れなくて良いような事まで触れた、
極々分かりやすいものだった。だが、その中に妙な点がある事にシンは気付いた。
 特別捜査隊の面々が言うには、これまでの“事件”の被害者は全て女性。それも、最初の被害者 山野 真由美に
何らかの関わりを持った女性との事だ。例えば、二人目の被害者 小西 早紀は山野の遺体の第一発見者であり、
雪子ならば山野が失踪する直前に取った宿の娘という具合にだ。どういった思惑で犯人が彼女らを毒牙に掛けようと
したのかは不明だが、ともかく今までの被害者にはある種の共通点があったという事であり、それを基に犯人像を
推理する事もできたのだ。
 ところが、明らかになったと思ったその被害者の法則に綻びが生じたらしい。何でも、次の被害者は“男性”だということが
判明したのだそうだ。
 これまで特定の女性ばかりを狙っていたのが、急に心変わりしたように男性を狙うというのは解せないところだ。
確かに首を捻らざるを得ないだろう。だが、シンはそれとは別の疑問に首を捻っていた。
 何故、“次に攫われるのが男性”だと、彼らは知っているのか?
 さも何らかの情報源が裏にあるような口ぶりで話合いを進める特別捜査隊にその事を問い詰めたところ、
またもシンは常軌を逸した事実を知ることとなった。

「“マヨナカテレビ”、ねぇ……」

 “雨の日の午前0時に、電源の消えたテレビの画面を一人で見ると、画面に自分の運命の相手が映る。”
 そんな内容で現在、稲羽市に広まっている都市伝説。それが“マヨナカテレビ”だそうだ。

75:ペルデス 3rd PHASE 35 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 02:21:48.76 発信元:114.189.47.247
 ヴィーノとかがこういう話聞いたら、絶対やるだろうな。
 茶髪に赤いメッシュを入れた数少ない友人の一人である同期のミネルバの整備士の顔を思い浮かべて、
シンは薄笑いを浮かべた。
 だが残念な事に、“マヨナカテレビ”とやらが実際に映しているのは運命の相手などという浮ついたモノでは無いらしい。

「ホントに映んのかよ? “次に攫われる人間”なんて」

 共に“テレビが関係している”という以外に繋がりが存在するのかは未だ不明だ。
 だが、どういうわけか“マヨナカテレビ”には“事件”の被害者となる、あるいはなっている人物の姿が映るのだそうだ。

「何だよ、信じてねーのかよオレらの話?」

 正直なところ、何とも眉唾な話だとシンは思っていた。
 この二日で様々な超常現象に触れる事となったシンだが、だからといってそういったものを
スンナリ受け入れられるようになったかといえば、そんなことは全くない。むしろ、今回は
今までのものよりも規模が小さくなっただけ、逆により疑わしいとさえ感じていた。
そんな根も葉も無さそうなオカルト話の類までもが“事件”に関わっているというのも、
その疑念に拍車を掛けている。
 そういうわけで頷き返すシンに、やれやれと陽介が頭を掻いた。

「あーもう、どうせもうちょいだ。」

76:ペルデス 3rd PHASE 36 ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 02:25:55.42 発信元:114.189.47.247
 映ったら呼んでくれ、とだけ告げて、陽介が部屋から出る。それにより、シンのみが
陽介の部屋にいる状態となる。
 つまり、一人で見るという“マヨナカテレビ”の条件の一つがクリアされた事になる。
 再度、入口上の丸時計にシンは目を遣った。
 午前0時まで後10秒を切った事を確認し、視線を灰色の液晶に戻した。
 未だ半信半疑ながらも、心中でカウントを取りながらシンはその時を待った。
 4……3……2……1……0。

「―ッ!」

 カウントを終了させるや、反射的にシンは仰け反った。
 低いノイズ音を伴って、電源の点いていない筈のテレビに、“光が点った”。
 聞き及んでいた話通りではあったが、それでもそう呟かざるを得なかった。

「ホントに……映った……」

 目を瞬かせるシンの眼前で、ザーザーと画面上を五月蠅く走る砂嵐越しに
“マヨナカテレビ”が男性のものらしき人影を映していた。

77:ペルデス ◆rvCk.7NUZ2
12/02/26 02:34:21.03 発信元:114.189.47.247
というわけで、PERSONA DESTINY 3rd PHASE終了させて頂きます。
読んで下さった方々、誠にありがとうございました。いやはや、前回の投稿から
大分時間が掛かってしまいました。恐らく次の投稿も長い期間を置くことになると
思うので、先に謝らせて頂きます。申し訳ない。
それでは、お目汚し失礼致しました。

78:いやあ名無しってほんとにいいもんですね
12/02/26 02:56:21.58 発信元:221.119.194.91
糞の巻き添えでアク禁くらっちまってる早く他板に書き込みたい


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