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狭い従兵室に搭乗員を並ばせ、向かい合って中央に玉井副長、その背後に指宿大尉が立つ。玉井が、
「本日、大西長官が本部に来られた」
と、口火を切った。
「一週間、比島東海岸の制空権を握り、このたびの作戦を成功させることができれば日本は勝つ。そのためにはお前たちの零戦に爆弾を抱いて、敵空母に突っ込んで叩きつぶす必要がある。
日本の運命はお前たちの双肩にかかっている」
搭乗員たちは、あまりに急な話に驚き、言葉も発せず棒立ちになっていた。「爆弾を抱いて突っ込む」というのはすなわち死ぬことではないか。
躊躇があったとしてもおかしくない。玉井は、一段と声を大きくして言った。
「いいか、お前たちは突っ込んでくれるか!」
すでに数多くの実戦を経てきた搭乗員たちには、戦闘機乗りとしての誇りがある。空戦で、こちらの技倆が劣っていて撃墜されるのなら仕方がない。
だが、爆弾を抱いて体当りでは、なんのためにいままで厳しい訓練に耐え、腕を磨いてきたのかわからない。
いつでも死ぬ覚悟はできている。現に多くの仲間が死んでいった。だが決死の覚悟で戦うのと、任務の達成すなわち100パーセントの死というのとでは、天と地ほどの差がある
―これは、若い零戦搭乗員の多くに共通する感覚であった。
反応がにぶいのに業を煮やしたか、ついに玉井が叱りつけるような大声で、
「行くのか、行かんのか!」
と叫んだ。
「その声に、反射的に総員が手を挙げた」
と、浜崎勇一飛曹は回想する。また、井上武一飛曹は、
「志願を募るというなんてことはひと言も出なかった」
とも回想している。
それは、形の上では仮に「志願」だとしても、「喜びの興奮に感激して」と猪口が書いたのとはほど遠い、拒否できない状況での不承不承の志願であった。
現代の流行り言葉で言えば、「同調圧力」そのものだろう。
ともあれこうして、全員が志願したことになったから、あとはいつ誰を指名するかは、玉井の肚一つである。
夜半を過ぎた頃、甲飛十期生たちが重い足取りで宿舎に戻って1時間ほどが経った頃、自動車のライトが近づいてきて止まった。車から降りてきたのは二〇一空の要務士である。
「ただいまから特攻編成を通告する」
要務士は、明日20日の特攻編成を読み上げた。ここで、体当り攻撃隊員12名が指名された。
以下略
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