18/07/01 00:13:57.91 b4LWUkTR0.net
かつて名声を手に入れた男がいた。
今彼は罪を犯し、暗い独房の中で繋がれてた。
冷たい鎖のはずが不思議と嫌な感覚はなかった。
看守が独房近くまで来る。
「おい、19番。水を置いとくぞ」看守が言った。
19番、彼の名前である。
水を飲もうと、
立ち上がろうとするもバランスを崩し、弱々しく転んだ。
彼の生い立ちは悲惨だった。
何もかもを憎んでいた。生きているのが嫌だった。信じられるはずの母も恨んでいた。
神も彼を見放した。
しかし彼には共に泣き、共に笑った友人がいた。良き友がいた。
そう、彼は1人ではなかったのだ。
彼は唯一の理解者さえ裏切った。
しかし涙は出ない。心を失ったからだ。
彼はついに人ではなくなった。
いや、もともと人の形の何かだったのかもしれない。
だが今では確認する術はない。
"それ"はついに獣になったのだ。
それは暗い檻の底で時が満ちるのを静かに待っていた。