18/07/03 09:57:32.49 0.net
西洋の印刷物を頼りに西洋舞踊について書くほど安楽なことはなかった。
見ない舞踏などこの世ならぬ話である。これほど机上の空論はなく、
天国の詩である。研究とは名づけても勝手気儘な想像で、
舞踏家の生きた肉体が踊る芸術を観賞するのではなく、西洋の言葉や写真から浮かぶ
彼自身の空想が躍る幻影を鑑賞しているのだった。見ぬ恋にあこがれるようなものである。
しかも、時々西洋舞踊の紹介などかくので文筆家の端くれに数えられ、それを自ら
冷笑しながら職業のない彼の心休めとなることもあるのだった。
『雪国』p.21